「宿輪純一の「逆張り経済論」」

円高は“悪”か

為替は株価、安いより高い方がいい

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2007年8月31日(金)

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 久しぶりの円高基調である。円ドルレートでは6月下旬に1ドル=124.14円、円ユーロレートでは7月下旬に1ユーロ=169.05円をつけてから、大きく相場が反転している。8月半ばには、円ドルレートでほぼ1年2カ月ぶりに1ドル=111円台、円ユーロレートでも9カ月ぶりに1ユーロ=150円を上回った。米国発の「サブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)問題」で、長期にわたった「円キャリー(円借り)取引」や海外投資が巻き戻ったのが、最近の円高の背景だ。

 ただし、そうは言っても中長期的に見ると円安の傾向には変わりがない。この2〜3年ほど、円の全面安が進んでいる。日本の主な貿易相手国通貨(26カ国・地域、15通貨)の為替レートを貿易額で重みづけして算出した実効為替レートでは、2007年6月に実質で93.4(1973年3月=100)となり、プラザ合意のあった1985年9月の水準を22年ぶりに下回った。

 今年の夏休みに海外旅行に出かけた方は、海外での買い物が本当に高く感じたのではないだろうか。特にユーロは、2000年に最安値1ユーロ=約89円をつけてから約2倍に値上がりしている。単純に言えば、欧州のブランド品やワインは価格が7年前の2倍になっているということだ。

 つまり、円の総合的な実力が大きく下がっているのである。端的に言えば、日本から資金が海外に流れ、「日本が売られていた」わけだ。果たしてこれは日本経済にとって好ましい状態なのだろうか。日本では、一般に円安の方が望ましいという意見が根強い。だが、私は、中長期的には円高の方が日本経済に好影響を及ぼす可能性が高いと考えている。これが今回の逆張りだ。

 詳しくは後述するが、円高がいいという理由は、私が為替レートを国の株価のようなものだと考えていることにある。自社の株価が安くなって喜ぶ社長は何かおかしい。経済的、政治的に優れた国の通貨は買われるのが自然の原理で、歴史的に見てもそれが好景気につながることが多い。加えて、円安による資金流出で、企業は国内で資金を調達しにくくなる。

 「サブプライムローン問題」に端を発した最近の急激な円高で製造業を中心に企業業績への不安が広がっており、株価も含め今後どのように進むかはもちろん注視すべきことである。だが、この問題を近視眼的にとらえ、「円高=悪」という考え方が再び首をもたげては日本経済の今後を誤りかねない。むしろ、もっと長い目で日本経済の構造的な課題を考えるよい契機ととらえるべきだ。

戦後の復興とプラザ合意が円高を恐れるトラウマに

 とは言っても、「そもそも日本で円安が望まれるのはなぜ?」――そう考える読者は少なくないかもしれない。そこで、まずは日本で円安が好まれる理由を論じておこう。

 理由は大きく2つある。1つは“戦後の復興”という長期的視点の理由、もう1つは、“現在進行形”の理由である。

 日本経済の繁栄のベースは戦後の復興期にある。その原動力は製造業による輸出だった。当然のことながら、輸出で利益を上げるには円安の方が望ましい。円安であればあるほど、海外での価格競争力が強くなる。同じコストで作った商品を海外では安値で販売できるからだ。

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著者プロフィール

宿輪 純一(しゅくわ・じゅんいち)

宿輪 純一1963年生まれ、麻布高校・慶應義塾大学経済学部卒業
(職歴)1987年、富士銀行に入行。国際資金為替部、海外勤務、決済事業企画部などに勤務。1998年、三和銀行企画部に移籍。決済業務部、UFJ銀行(合併)、UFJホールディングス経営企画部、UFJ総合研究所国際本部などに勤務。
(教歴/兼務)2003年東京大学大学院非常勤講師(3年)、清華大学大学院(中国)顧問、2007年早稲田大学非常勤講師(現職)、2009年上智大学非常勤講師。
(現在)博士号(経済学)を持つエコノミスト。早稲田大学非常勤講師。ボランティア公開講義「宿輪ゼミ」代表。
(専門)通貨、国際金融、市場、決済。マクロ経済、国際経済。企業戦略。
(趣味)映画評論、シネマ経済学。
(委員)アジア開発銀行「アジア債券市場イニシアティブ(ABMI)」、財務省「ASEAN為替制度と金融市場研究会」、経済産業省「グローバル財務研究会」、外務省「アジア太平洋経済委員会」、全国銀行協会「SWIFT委員会」、「大口決済システム検討部会」、「全銀 システム検討部会」ほか。
(単著)『通貨経済学入門』、『アジア金融システムの経済学』、『実学入門 社長になる人のための経済学―経営環境、リスク、戦略の先を読む』(以上、日本経済新聞社)。『ローマの休日とユーロの謎―シネマ経済学入門』(東洋経済新報社)。
(共著)『マネークライシス・エコノミーグローバル資本主義と国際金融危機』(日本経済新聞社)。『円安VS円高―どちらの道を選択すべきか』、『決済システムのすべて』、『証券決済システムのすべて』(以上、東洋経済新報社)ほか.
オフィシャル・ウエブサイト:http://www.shukuwa.jp/
過去のコラム:宿輪純一の「逆張り経済論」



このコラムについて

宿輪純一の「逆張り経済論」

「エコノミスト兼映画評論家」という一風変わった肩書きを持つ金融マンが、経営・経済・金融の動向を世の大勢とは少し違った視点で眺め、逆張りの異論を提供します。

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