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第14章 破綻(6)

2007年8月27日(月)

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 ジウリンは懸命に親会社の支援を要請し、BP、CNOOCとの出資交渉を続けた。

 BPとは守秘義務契約を締結し、オプションのポジションも開示した。BP側は、CAOが容易ならざる事態にあることを知り、弁護士と相談しながら、話し合いを続けた。CAOが持つ中国へのジェット燃料の輸入独占権に魅力を感じつつも、BPは、話し合いが進むにつれ、解決が困難であることを実感して行った。

 原油価格は多少下がり、WTI(先物)は46ドルから50ドルで推移した。しかし、11月15日には、CAOのオプションの評価損が4億4300万ドルに達した。銀行の融資枠から引き出しを続け、増加するマージンコールに応じていたが、間もなく資金は完全に枯渇した。

 北京の親会社や国有資産監督管理委員会、CSRC(中国証券監督監理委員会)では、CAOをどうすべきか侃々諤々の議論が続けられた。

 一民間企業のために国家の資金を使うべきではないとか、CAOを救わなければ中国のイメージが低下するとか、オプションのポジションに関し、何かよい解決方法があるのではないかといった議論が百出し、まとまる気配がなかった。

 株式市場では、第3四半期の決算発表以来、CAOの株価はじりじりと下がり続けた。市場では、CAOはデリバティブで巨額の含み損を抱えているとか、すでにジウリンが辞職したという噂が飛び交った。

 11月21日、CAOに悪い報せがもたらされた。再建の頼みの綱と見ていたBPが、出資を断ってきたのだ。

 11月24日、北京の親会社は、去る8月にCAOが合意したシンガポール石油会社(SPC)の株式20.6%をインドネシアのサティヤ・キャピタルから3億6200万ドルで購入する契約を、白紙撤回させると突然発表した。

 CAOの株価は、一気に16.8%下落し、1シンガポールドル4セントとなった。ジウリンは、「親会社を訴える!」と息巻いたが、無論、ポーズにすぎなかった。 

 26日、ソシエテ・ジェネラル銀行が、主幹事としてCAO向けに組成した3億シンガポールドルのシンジケート・ローンをキャンセルすると発表。CAOの株価は、再び下落し、96.5セントと、1月以来の1シンガポールドル割れとなった。同日、CNOOCとの出資交渉も失敗。ストラテジック・パートナーが入る可能性はゼロとなった。

 11月28日、日曜日――

 ジウリンは、CAOのオフィスで、北京の親会社からの連絡を待っていた。休日のオフィスは、人気(ひとけ)がなかった。

 北京では、CAO問題に関して、最後の話し合いが行われていた。

 ジウリンは社長室のデスクにすわり、パソコンの画面に表示された石油相場の数字をじっと見る。WTI(先物)は49ドル44セント、ケロシンは56ドル68セントだった。

 (何で下がらんのだ……下がるはずなのに……いつまで待てばいいんだ……) ジウリンは、画面を見詰めながら、心の中で呪詛の言葉を吐き続けた。

 睡眠不足で両目の下にくっきりと隈ができ、皮膚は精気を失っていた。

 シンガポールは雲1つない快晴であった。

 窓から見える「サンテック・シティ」は、夥しい数の買い物客で賑わい、高さ14メートルの「富の噴水」は盛んに水を噴き上げていた。机上の電話が鳴った。ジウリンは、身体をびくりとさせる。

 何度かのコール音の後、意を決したように受話器に手を伸ばした。

 「チェンです」

 「こちら、北京の……」

 中年女性の声。緊急対策チームのメンバーで、親会社の企画開発部長であった。

 「今、決定が出ました」

 女の声が、判決を宣告する裁判官の声のようにジウリンの耳に響いた。

 「……CAOは会社更生手続に入ってもらいます。シンガポール会社法210条にもとづく、資産保全を直ちに裁判所に申請して下さい」

 「会社更生手続……」
 ジウリンの顔から血の気が引いた。

 「CAOを見捨てるんですか!?」

 「残念ですが、最終決定です」

 「オプションのポジションを移転する契約書まで作ったのに!?」

 「ストラテジック・パートナーなしでは、マージンコールに耐える資金がありません」

 ジウリンの顔が苦渋で歪む。金がないといわれれば、反論のしようがない。

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「第14章 破綻(6)」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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