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第14章 破綻(8)

2007年9月10日(月)

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 12月7日火曜日――

 午後、ジウリンはすすけた緑色のシトロエンのセダンにスーツケースを積み込み、リアシートにすわった。

 父親と、父親の身の回りの世話をしている60歳くらいの女性が、車窓の外で手を振っていた。車が走り始め、リアウィンドウに2人の姿が見えなくなるまで、ジウリンは手を振り続けた。

 車は村の本道に出て、ポプラ並木の通りを走り、やがて白い石の橋にさしかかる。

 ふと背後に視線をやると、シルバーのワゴン車が随いてきていた。「財経」の記者とカメラマンだった。2人は昨日もジウリンの家に訪ねて来た。村人たちからも話を聴いて回ったようだ。

 村人たちは、父やジウリンに対しては気を遣(つか)ってCAOの話題には一切触れなかったが、事件はテレビや新聞で報じられており、すべての村民が「村始まって以来の神童の破滅」を噂し合っていた。

 古いシトロエンは、砂埃を上げながら3日前に来た道を2時間余りかけて走り、武漢空港に到着した。

 「チェンさん、シンガポールに戻られるんですね?」

 空港ビル前の車寄せで、ジウリンがスーツケースをカートに載せようとしていると、「財経」の記者が声をかけてきた。

 背後で乗客や見送り人たちが、2階建ての空港ビルを出入りしていた。

 「今、どんなお気持ちですか?」

 ジウリンは、スーツケースをカートに載せてから、ゆっくりと口を開く。

 「マージン・コールに応じるための資金を、親会社が融通してくれていたら、危機に陥るどころか、莫大な金を儲けられていただろう」

 表情に無念さが滲んでいた。

 「5億5000万ドルということですか?」

 「そんなには要らない。2億5000万ドルもあれば足りた」

 「財経」のカメラマンが、シャッターの連続音を立て、ジウリンの写真を撮り続ける。

 「今回のことがなければ、CAOは3年以内に、完全な供給ラインを持った準オイルメジャーに育っていたはずだ。……こんなことが起きるとは、まったく予想もしていなかった。……自分としても、胸が張り裂けそうな思いだ」

 最後のほうは絞り出すようにいった。

 「シンガポールに戻ったら、当局の事情聴取に応じるんですね? どのような処分を受けると思いますか?」

 ジウリンの表情に、泣きたい気持ちをこらえているような影が走った。

 「監獄に入る準備はできているよ。……刑期を終えたら、寶龍村で農民にでもなるさ」

 自嘲するような笑みを浮かべていうと、カートを押し、空港ビルの中に入って行った。

 搭乗する中国東方航空2511便は、午後6時40分の出発である。

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「第14章 破綻(8)」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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