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第15章 ドナウ川の旅人たち(3)

2007年10月1日(月)

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 5月下旬――

 NGOアース・ウィンズ・ジャパンの金沢とし子は、モスクワからベオグラードに向うアエロフロート(SU)161便の機内にいた。機種は旧ソ連製のツポレフ154型機。胴体後部に3基のジェット・エンジンを備え、垂直尾翼の上に水平尾翼が付いている。

 座席はエコノミークラスだった。NGOは財源も限られているので、海外の会合に出るときは、なるべく安い航空券を使わなくてはならない。

 モスクワでは、サハリン環境ウォッチやワイルド・サーモン・センター(米国オレゴン州)といったNGOの人々と一緒に、サハリン・リソーシズ社との会合に出席した。

 会合で、とし子は「ナホトカ号」事故について話した。8年前にロシア船籍タンカーが島根県壱岐島の沖合いで座礁し、石川県から島根県にかけての日本海沿岸が大量のC重油で汚染された事故である。サハリン・リソーシズ社に出向しているアングロ・ダッチ石油の英国人は「その事故については知らなかった。サハリンBでも、地元の漁業関係者と十分話し合いをして、対策を立てたい」と答えた。

 (いつも答えだけはいいんだけれど……)

 サハリン環境ウォッチ代表のリシツィンは「サハリン・リソーシズ社は、環境保護に関して膨大な文書を作るが、現場でやってることは何も変わっていない」と非難している。とし子たちが、今、恐れているのは、地元政府、サハリン・リソーシズ社、金融機関が、プロジェクトを強引に進めようとして、融資を既成事実化することだ。

 旧ソ連の遺物のような中型機は、南へと飛び続けた。

 「Fifteen minutes to landing(着陸15分前)」

 機内アナウンスが流れ、とし子は、窓の外を見下ろした。

 地上は見渡す限りの畑。地平線の彼方から流れてくる茶色い大河が、茶色、薄茶、緑、薄緑の四角いパッチワークの中を蛇行していた。

 (あれは、ドナウ川……?)

 セルビア・モンテネグロの首都ベオグラードは、ドナウ川とサヴァ川の合流地点にあり、 古くから欧州と中近東を結ぶ交通の要衝として発展した。1918年から2003年までは、 旧ユーゴスラビアの首都であった。

 間もなく、ツポレフ154型機は、ニコラ・テスラ国際空港に着陸した。

 空港の周囲は畑で、トルコやイタリアにあるようなオレンジ色の屋根の家々が見えた。

 ベオグラードは、ヨーロッパ最古の都市の1つで、アテネ、ローマに次いで、最も古い首都だといわれる。人口は約120万人。

 街は、サヴァ川の東岸の旧市街と西岸の新市街とに分かれている。旧市街は、中世ヨーロッパ風の石造りの建物と、共産主義時代のコンクリートの箱のような建物が混在している。

 1389年から約500年間にわたってこの地を支配したオスマントルコの影響を受けた円蓋屋根やミナレット風の尖塔を持つ建築物も見られる。1999年にNATOに空爆され、土地の所有権の帰属が確定しないため、爆撃された当時のままのグロテスクな姿を晒す国防省の建物も残っている。

 セルビア人たちは瞳の色が薄く、茶色や灰色の髪が多い。ケルト、ローマ、ビザンチン、スラブ、ハンガリア、トルコなど多くの民族が交錯した土地のせいか、人々の背の高さや体形に統一性がない。

 ホテルは、中東欧の11の環境保護団体が加盟しているCEEバンクウォッチ・ネットワークのベオグラード支部が手配してくれていた。場所は新市街で、建物の密集度が低く、空き地もある。ガラスを多用した近代的なビルも多く、ソシエテ・ジェネラル銀行(仏)やライファイゼン銀行(オーストリア)など、外資系金融機関が店舗を構えている。

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