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第15章 ドナウ川の旅人たち(5)

2007年10月15日(月)

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 翌日(総会3日目)――

 EBRDのルミエール総裁とNGOの会合は、サヴァ・センター内のNGO用大会議室で、午前9時から始まった。

 室内には、口の字型にテーブルが並べられ、EBRDの理事、職員、NGOの代表など60~70人がすわった。男性はほぼ全員がネクタイにスーツ、女性はスーツかビジネスカジュアル。各人の前に黒いマイクがあり、ロシア語と英語の通訳用のヘッドセットが置かれていた。

 「今日、こうしてNGOの皆様とお話しする機会を持つことができ、大変嬉しく思っています」

 ダークスーツ姿の総裁が着席したままマイクに向かっていった。

 白髪まじりの髪をきれいに撫で付け、肉付きのよい顔に銀縁の眼鏡をかけたジャン・ルミエール(Jean Lemierre)は1950年生まれ。ミッテランやシラク大統領、トリシェ欧州中銀総裁などを輩出したパリ政治学院(Institut d'Etudes Politiques de Paris)と国立行政学院(cole nationale d'administration、略称ENA)を卒業したフランスの超エリートだ。財務省の局長、欧州通貨委員、国税長官などを歴任し、2000年7月にEBRD総裁に就任した。将来はIMF(国際通貨基金)総裁の椅子を狙っているといわれる。

 「……皆さんから忌憚のないご意見を伺って、EBRDの業務をよりよいものにして行きたいと思います」

 ルミエールは、抜け目のなさそうな微笑を浮かべた。

 「サンキュー、プレジデント。……では、まず最初に、サハリンBについて、ご意見を伺います」

 司会を務めるブルガリアのNGO「Za Zemiata ( For the Earth )」の女性がいった。黒髪で目元が涼しい女性である。

 「サハリン・リソーシズ社が、海底パイプラインがコククジラの餌場を通過しないように、敷設ルートを変更したことは、我々も高く評価しています」

 最初に指名されたサハリン環境ウォッチ代表のディミトリー・リシツィンがいった。

 年齢は若いが、額は禿げ上がり、大きなレンズの眼鏡をかけた独特の風貌である。

 「しかしながら我々は、オフショア・プラットフォームはコククジラの生息に脅威を与えるものであり、プラットフォームも移動されるべきと考えます」

 ルミエール総裁の隣りにすわったEBRD環境局長のアリステアー・クラークが、リシツィンの言葉を黙然として聴いていた。

 すでに第2フェーズのピルトン・アストフスコエ鉱区の第2原油生産プラットフォームと、ルンスコエ鉱区のガス生産プラットフォームの建設はかなり進んでいる。それぞれ4本足のコンクリート製重量構造物で、前者は上部構造重量2万2000トン、後者は同2万8000トンという巨大なものだ。今さら場所を移動しろといわれても、パイプラインのように簡単にできるものではない。

 「プラットフォームだけでなく、サハリンBプロジェクトによって様々な環境破壊が行われています。……こちらをご覧ください」

 リシツィンは室内を薄暗くし、手元のラップトップのキーボードを操作して、正面の壁のスクリーンに映像を映し出した。

 室内の人々の視線がスクリーンに集まる。

 茶色い土と木材で、川がせき止められ、水が茶色く淀んでいる写真だった。

「これは、北緯52度30分付近のガロマイ川支流のパイプライン工事現場の写真です」

 リシツィンが淡々といった。

 ノグリキからさらに60キロメートルほど行った場所である。

 「冬の間に凍った川の上に、土と木材で工事用の橋が作られ、それを放置したために、雪解けと共に崩れ落ちて川をせき止め、汚染の原因になっています」

 リシツィンは、別の角度から撮った別の2枚の写真も映し出した。

「当然のことながら、魚が泳ぐことはできません」

 次の写真は、その下流で、放置された木材と土が流れをせき止めていた。

 「こちらの現場も同様です。流れがせき止められたために、川床に沈殿物が溜まり、魚の産卵ができない状態になっています」

 次は、狭い川の両側に白いビニールに入った土嚢が積み上げられ、手前に茶色い土が盛り上がり、土管の一部が見える写真だった。やはり水がせき止められ、茶色く不健康に淀んでいた。

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「第15章 ドナウ川の旅人たち(5)」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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