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第15章 ドナウ川の旅人たち(6)

2007年10月22日(月)

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 6月上旬――

 五井商事の金沢明彦は、出勤前に自分の部屋でメールをチェックしていた。

 今日も100通以上のメールが入っていた。「人の(東洋)物産、組織の(五井)商事」といわれるだけあって、社内各部署の意思疎通を緊密にするためメールが多い。鋼管輸出部部長代行の高塚は毎日500通くらいメールがあるので「TO(高塚宛)のメールは読むけど、CCとかBCCは原則読まない」と宣言している。

 一通りメールをチェックし終わり、腕時計に視線を落とす。家を出るまでには、まだ少し時間があった。
 英文のニュースサイトを開いてざっと眺めていると、見出しの1つが目に留まった。

 「5 CAO executives arrested, creditors back debt plan」
(CAOの5人の幹部が逮捕される。債権者は債務返済計画を支持)

 金沢は見出しをクリックし、記事の本文を開いた。

 一昨日の夕方6時に、シンガポール警察は、CAOの幹部5人を逮捕したという。逮捕されたのは、チェン・ジウリン、CAOのシンガポール人財務部長、親会社の社長である莢長斌(ジャー・チャンビン)、親会社の企画開発部長で緊急対策チームの長を務める中年女性、親会社の資産・財務管理部長でCAOの役員を兼務している男性である。

 チェン・ジウリンは、昨年12月に寶龍村からシンガポールに戻ったとき逮捕され、保釈金を積んで釈放中だったが、今回の再逮捕で拘置所に収監された。会社法、証券・先物法、刑法などに違反した15の嫌疑がかけられている。

 シンガポール人財務部長は、虚偽の財務諸表を作成した証券・先物法違反の嫌疑。

 親会社の3人は、CAOのオプション取引による損失をSGX(シンガポール取引所)に報告しなかった証券・先物法違反や、CAOの含み損を隠して昨年10月に持株の15パーセントを処分したインサイダー取引の疑いだった。莢長斌はCAOの債権者集会に出席するためシンガポールを訪れていたところを逮捕され、他の2人は、緊急対策チームとしてシンガポールに滞在中だった。3人は、保釈金を積んで釈放されたという。

 中国の国営企業の幹部が海外におけるホワイトカラー犯罪で逮捕されるのは、おそらく史上初めてのことだ。中国企業に詳しい香港の投資家は「中国人は何でも執念深く憶えているから、外国の規制当局はこれまで強い態度に出ることはなかった。シンガポール政府の動きは、自国の国際金融センターとしての名声を断固として守ろうという意思の表れだろう」とコメントしていた。

 一方で昨日、CAOの債権者集会が開かれ、ほぼ「無風」で会社側が提案した債務返済案が承認された。各債権者は、弁済率45パーセントの一括弁済か、同58パーセントの5年間分割弁済を選択する案で、出席した債権者92社のうち89社が同意した。債権者たちは、目ぼしい資産のない燃料商社を清算しても高い弁済率は期待できないという実利的な判断をした格好だ。シンガポール政府の投資会社であるテマセックが、CAOの親会社や資本参加を検討中のBPと共に、1億3000万ドルの増資引き受けをする予定であることも評価された。CAOは上場を維持し、経営を再建して株式の取引再開を目指すという。

 今後、事件は、どのように経営を再建していくかという点と、チェン・ジウリンらの刑事裁判の行方に焦点が移る。また、CAOはゴールドマン・サックスの商品取引子会社であるJアロンを「誤った市場見通しを示して、CAOをミスリードした」と訴え、東洋住之江銀行や韓国のSKエナジーが債務の全額返還を求めてCAOを訴え、米国の3つの法律事務所がCAOの虚偽の情報開示で投資家が損害を蒙ったとして、米国でクラスアクション訴訟を提起していた。

 (だいたい予想通りの結末だな……)

 金沢は、パソコンのスクリーンを見詰めながら、コーヒーをすすった。

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「第15章 ドナウ川の旅人たち(6)」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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