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第16章退役イギリス軍人(1)

2007年11月5日(月)

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 11月下旬の英国は、冬の足音が聞こえてくる季節である。

 ロンドンのリバプール・ストリート駅を出て列車で30分も走ると、車窓の外は、なだらかな丘陵地帯、茶色い畑、森、林、点在する民家、教会の尖塔という田園風景になる。畑は収穫が終わってきれいに鋤(すき)がかけられ、農作物の白っぽい茎の跡があちらこちらに残っている。

 コルチェスター(Colchester)は、ロンドンの北東88キロメートルに位置している。紀元43年に、ローマ帝国の入植が始まった古い町である。人口は約10万人。中心部は坂が多く、メインストリートを挟んで市役所(シティ・ホール)、教会、古いホテル、パブ、スーパー、賭け屋(ブック・メーカー)などが集まっている。

 遠くに視線をやると、田園地帯や林が広がっている。

 「Dad, Putin rejected Anglo-Dutch’s budget for Sakhalin B.(父さん、プーチンがアングロダッチのサハリンBの予算案を蹴っ飛ばしたらしいよ)」

 パソコンのフラットスクリーンを3つ置いた机にすわった年配の男がいった。

 コルチェスター中心部から車で15分ほどの静かな住宅地にある1軒の家であった。

 「何、プーチンが?」

 リビングルームのソファーにすわり、うつむいてパソコンを叩いていた88歳の父親が振り返った。白髪に大きなフレームの眼鏡、耳には補聴器をしていた。

 「International Gas Reportに出てるよ」

 続き部屋になったもう1つのリビングルームの机にすわった息子がいう。年齢は60代で、額が広く腹が出ているが、風貌はエネルギッシュな感じである。

 息子は手にしたコピーを父親に示した。米国マグロウヒル・グループのエネルギー商品市況情報会社プラッツ(Platts)が月に2回発行しているガス業界に関するレポートだった。

 「ちょっと読むよ。『ロシア大統領ウラジミール・プーチンは、サハリンBの予算が当初の100億ドルから200億ドルに増えることは絶対に認めないと述べた。また、ロシアの会計検査院は、サハリンBのPSA(生産物分与契約)を破棄して、別の投資家を入れるよう要求している』」

 息子は椅子にすわったまま、大きな声で手にした記事を読み上げる。

 2メートルほど離れたソファーにすわった父親は、上半身をねじり、補聴器を付けた耳に片手を当てて聴く。

 「『ロシアの産業・エネルギー相は、11月1日に発した声明で、アングロ・ダッチ石油が提案した予算の増額は根拠に乏しいと批判した。業界関係者は、アングロ・ダッチ石油に対するロシア政府の攻撃は、サハリンBを自分たちのコントロール下においてガスプロムにやらせるための地ならしと見ている』」

 息子が読み上げ、父親のほうを向いた。

 「なるほど……やはりプーチンは相当怒っているわけだな」

 背中がやや丸まった父親がいった。

 老いてはいるが、風貌や話し方に、元軍人らしい芯の強さが漂っている。

「新聞に書いてあったとおりだね」

 息子がいった。

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「第16章退役イギリス軍人(1)」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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