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第16章退役イギリス軍人(2)

2007年11月12日(月)

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 12月中旬――

 「……えー、トーニチがつつがなくトミタ通商と合併契約を締結することができたのも、社員の皆さんの努力の賜物だと思っております」

 丸の内3丁目にあるトーニチ本社の広い会議室で、40代半ばのオールバックの男がマイクを手に、挨拶をしていた。

 債権銀行から送り込まれた「外人部隊」のトップで、経営企画室長としてリストラに大鉈を振るった男だった。10日ほど前に、トーニチとトミタ通商の取締役会がそれぞれ合併を決議し、合併契約を締結したのを機に、銀行に引き揚げることになった。

 会議室にはビールやつまみが用意され、副社長以下、大勢の社員が集まっていた。

 窓の外は、丸の内のビル街の夜景である。

 「この2年半の間、社員の皆さんには大変なご苦労をおかけし、心ならずも、厳しいことを申し上げることもありました。しかし、すべては取引先などに迷惑をかけたトーニチを、世間に顔向けできる会社にしたいと思ってのことです」

 強面で鳴らした銀行員は相変わらず威圧的な胴間声だった。

 大勢の社員たちの中に、専務の亀岡吾郎と腹心の法務部長もいて、冷ややかな表情で挨拶を聞いていた。

 「……あんな滅茶苦茶なリストラをやらなけりゃ、今頃、トーニチは立派に蘇っていたんでしょうにね」

 法務部長が呟いた。物腰はソフトだが、したたかな関西人である。

 「確かに、資源関連がこれだけ高騰すればな」

 隣りに立った亀岡が淡々とした表情でいった。

 昨年(2004年)10月にWTI(先物)が50ドルを突破し、CAO(中国航油料)破綻の引き金となった原油価格は、去る6月には60ドルを突破した。原油、銅といった資源価格が高騰し、中国の経済成長を原動力として、素材関係のビジネスも活況を続けており、総合商社上位5社は今期そろって過去最高益を更新する見込みである。

 「商事は、豪州の石炭事業子会社だけで1000億円の純利益を稼ぐらしいですな」

 法務部長がいった。

 五井商事は、今期、連結純利益3400億円を見込んでいる。

 一方、6位以下の商社は、合併、リストラ、専門商社化で、資源価格高騰のメリットを十分に享受することができなかった。

 「今年は『9社体制』終焉の年だったな」

 亀岡の口調に寂しさが漂う。

 総合商社の9社体制は、1977年に伊藤忠商事が安宅産業を吸収合併したときから続いていた。

 トミタ通商との合併を機に、亀岡自身も専務を退き、国際協力銀行がイランに30億ドルを融資したときに作ったSPC(特別目的会社)「ユーラシア石油輸入」の常勤社長になる。亀岡はそこを足場に、イラク原油の開発権に手を伸ばそうと考えていた。

 「ところで、サハリンBは、EBRD(欧州復興開発銀行)が、ついにコンサルテーション開始に踏み切ったようですな」

 法務部長の言葉に、亀岡が頷いた。

 環境保護団体の反対や、コストオーバーランの発生といった荒波に揉まれてきたサハリンBは、ようやくEBRDのコンサルテーションへと手続が進んだ。コンサルテーションとは、実務担当者レベルで融資をすると決めた後、地域住民やNGO、その他関係者(ステークホルダー)から意見を受け付けることである。今回のコンサルテーション期間は120日。期間が満了すると、出資各国代表者の会議である理事会で融資の最終決定がなされる。

 「EBRDがやれば、JBIC(国際協力銀行)も心おきなく融資できるんでしょうね」

 「その点は問題ないんだろうが……相手はロシアだからな」

 亀岡は含みのある口調。

 「プーチンはコスト増も認めとらんらしいし、最近は原油高で強気になっとるし、何いってくるかわかったもんじゃない」

 露助(ろすけ)は信用ならん、付き合うならイランだ、が亀岡の口癖である。

 会議室では、経営企画室長の挨拶が終わりに近づいていた。

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「第16章退役イギリス軍人(2)」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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