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第17章 原生花園(1)

2007年12月25日(火)

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 7月下旬の網走は、観光客の姿があちらこちらで見かけられる。

 駅の裏手の小山は鬱蒼とした緑に覆われ、蝉が鳴いている。街はいつもと変わりなく、北方特有の広大な水平景観の中を、時間がゆったりと流れている。

 五井商事サハリン・プロジェクト部の部長代理、金沢明彦は、市内にある「エコーセンター2000」で、サハリン・リソーシズ社主催の地域説明会に出席していた。

 同センターは、2000年に造られた4階建ての多目的ホール。建物の前に広い駐車場があり、南天やスズカケの木の緑の葉が風にそよいでいる。建物の外壁は、灰色のタイルとコンクリートの打ちっぱなしというモダンなデザインで、内部には市立図書館が入っている。

 地域説明会の会場は、2階の大ホールであった。

 縦横20メートルほどの四角い空間で、天井が高く、教会の礼拝堂を思わせる。左右の窓からは、そばを流れる網走川と対岸の網走市街が見える。川岸には、たくさんの小型漁船が舫(もや)われている。

 正面にスライド映写用の白いスクリーンがあり、右手にサハリン・リソーシズ社の広報担当者や広報部門のロシア人女性がすわっていた。

 3人がけの長テーブルが教室のように並べられ、地元の漁業関係者、NGO、金融機関やサハリン・リソーシズの関係者など70~80人が出席していた。席の指定はないが、漁業関係者やNGOは室内の右側に、金融機関やサハリン・リソーシズの関係者は左側に、何となく固まってすわっていた。金髪の米国人女性や、とし子の姿もあった。金沢は、財務部の若手や、東洋物産の財務部の男たちと一緒のテーブルにすわった。

 「それでは、予定の時間が参りましたので、始めさせていただきます」

 室内の右手前方にすわったサハリン・リソーシズ社の広報担当の男が立ち上がっていった。東洋物産から出向している小太りの中年男である。仕立てのよいスーツを着て、エルメスの絹のネクタイの結び目の下をディンプル(くぼみ)にしていた。

 自己紹介をしてから、スライドを使ってプレゼンテーションを始めた。

 サハリンBの概要、油流出対策、アニワ湾の浚渫工事、サハリン・リソーシズ社が定めたHSES(Health, Safety, Environmental, Social Action Plan=健康・安全・環境・社会に関する行動計画)などについて、約1時間かけて説明した。すべての面で対策を打っているという内容であった。

 「……わたしどもからのご説明は、以上のとおりです」

 発言を求める手が何本も挙がった。

 「サハリン・リソーシズ社は、宗谷海峡の潮の流れがどうなっているか、分かってますか?」

 地元の漁業関係の男性が訊いた。

 「本日データは持ち合わせておりませんが、潮の流れを考慮した上で、HSESを定めています」

 広報担当の男が、顔の汗をハンカチで拭いながら答えた。小太りで汗かきである。

 「もし宗谷海峡で事故があると、高い確率でオホーツク海に油が流れ込んできます。そういう時は、どのように対応するんでしょうか?」

 「タンカー事故については、船主に法的責任があります。サハリンBの施設からの流出事故であれば、もちろん我々に責任があり、油流出対応計画などの対応策を準備しています」

 広報担当の男が立て板に水で答える。

 「大事故の場合は保険で対処することになります。以上の内容につきましては、国土交通省のホームページに記載されているとおりです」

 中年の漁業関係者は、納得がいかないといった顔つき。

 「鉱区付近の沿岸は、湿地でぬかるんでいて、大型トラックも通れないと聞いています。油流出事故が起きた場合、沿岸からどのように防除作業をするんでしょうか?」

 別の漁業関係者が訊いた。

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「第17章 原生花園(1)」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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