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第18章 省益油田の挫折(1)

2008年2月4日(月)

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 8月22日火曜日――

 亀岡吾郎は、「ユーラシア石油輸入」のオフィスで、夕刊を読んでいた。

 テヘランから戻った翌週であった。

 (日本の協力なしでも、自力開発できる、か……)

 老眼鏡をかけた視線が、机の上に広げた新聞の活字を追う。

 イランの通信社が報じたニュースであった。イラン国会のエネルギー委員長カマル・ダネシュヤルが、「巨大油田の開発は、イランの国営石油会社がやれば、日本企業の半分の費用と期間ですむ」と強調したという内容だった。

 (相変わらず、派手な国内宣伝をやるものだ)

 自力開発する力がイランにないことは、明らかだ。

 経産省系石油開発会社のテヘラン事務所からは、イラン側が交渉期限を9月15日まで延長してきたと連絡が入ったばかり。ずるずると交渉期限を延長するようなみっともない真似をするのは、手元に強力なカードを持っていない証拠である。

(しかし、何らかの決着をせんと……)

 いつまでも交渉期限を延長し続けることはできない。

 (今日が、『包括見返り案』に対する回答の提示期限だったな……)

 新聞の日付に視線をやった。

 EUなど6ヶ国が6月に提案した「包括見返り案」は、イランがウラン濃縮活動を停止すれば、合弁事業による軽水炉原発建設などを認めるという内容だった。

 すでにイランからは、テヘランに駐在している6ヶ国の外交官らに回答書が手渡された模様だと連絡が入っていた。しかし、昨日、最高指導者であるハメネイ師が国営テレビで「核開発を力強く推進し続け、努力の成果を手にする」と述べ、「包括見返り案」を拒否するサインを送っていた。

 亀岡は思案顔で窓の外に視線をやった。

 最高気温が30度を超えた真夏日であった。夕方になり、陽の光は多少茜色を帯びていたが、気温は依然として30度近い。

 机上の電話が鳴った。

 (外務省か?)

 受話器に手を延ばす。

 イラン政府の回答内容を、親しい外務省の職員から知らせてもらうことになっていた。

 「亀岡です」

 「亀岡さん、すいません、JBIC(ジェービック)の……」

 相手は国際協力銀行(JBIC)資源金融部の幹部だった。

 亀岡は、いったい何事かと訝る。

 「実は、イランが例の30億ドルのオイルスキームをリスケ(返済繰延)してくれといってきました」

 「本当ですか?」

 思わず訊き返した。

 しかし頭の中では、あっても不思議ではないと考えていた。

 「昨日、在日イラン大使館をつうじていってきました」

 「理由は何なんですかな?」
 
 「オイルスキームの返済に金を使うと、他で使えなくなるからといっています」

 亀岡は心の中で舌打ちした。

 (やはり金がない国だ……)

 油価が上昇しても、イランの財政は相変わらず逼迫している。イラン・イラク戦争や米国の経済制裁による疲弊、人口の上位2割が全国民資産の8割を保有し、人口の3割は貧困層という富の不公正な配分、軍事支出やハマス(パレスチナの戦闘的なイスラム原理主義団体)、ヒズボラ(レバノンのシーア派政治組織)への支援などが原因だ。原油価格の高騰でもたらされた予算を上回る部分の収入は、石油安定化基金(Oil Stabilization Fund、略称OSF)に入れられ、国家予算とは別管理されて、民間製造業の新興などに使われることになっている。しかし、アフマディネジャド大統領は、国内のガソリン価格を1リットル当たり9セントという極端な安値に抑えておくための補助金として、今年前半に25億ドルを同基金から引き出し、さらに35億ドルを引き出そうとしている。

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「第18章 省益油田の挫折(1)」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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