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終章 クレムリンの攻撃犬(4)

2008年4月14日(月)

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 夕食を終えると、近くのシェラトン・パーク・レーン・ホテルに滞在しているモスクワ事務所長は、徒歩で帰って行った。

 金沢と財務部の若手は、タクシーで、宿泊先のグレインジ・ホルボーン・ホテル(Grange Holborn Hotel)まで戻った。場所は、地下鉄ホルボーン駅から150メートルほど北。灰色のポートランド石(英国ポートランド島産の建築用石灰石)造りで、10階建てのホテルである。英国五井商事までは、歩いて5分ほどで、コーポレート・レート(会社割引)で安く泊まることができる。

 「……あ、高塚さん!」

 2人がタクシーを降りて、ホテルのロビーに入ると、鋼管輸出部の部長代行の高塚がコンシェルジュと話していた。金沢より5年次上で、学生時代は棒高跳びの選手。

 「やあ、金沢君たちも来てたの?」

 大柄で均整のとれた身体つきの高塚は、いつもの明るい調子でいった。

 「サハリンBの財務委員会で来てます。高塚さんは?」

 「トルコとか、ブルガリアとか色々パイプの案件があってね。……よかったら、ちょっと飲まない?」

 ロビーは、ソファーセットが10組くらい置いてあり、バーになっていた。

 財務部の若手は、メールをチェックするといって部屋に引き上げた。

 「サハリンBは、結構大変みたいだね」

 モスグリーンの布張りのソファーにすわって高塚がいった。

 低いテーブルのガラスの天板の上には、1輪の赤いバラと、小さなキャンドルが置かれ、蝋燭の炎が、空調の空気の流れで揺らめいていた。

 「いよいよ交渉が、大詰めに来たって感じですね」

 と金沢。

 「この際、ロシア側との懸案事項は全部きれいにケリつけて、すっきりするっていうのも1つの考えかたかもしれないなあ」

 高塚がいった。

 「いずれにせよ、あと2~3ヶ月で、何らかの決着が着くと思います。……我々の側に、あまり不利な結果にならなければいいんですが」

 脳裏を、北樺太石油の歴史がよぎった。

 黒服のウェイターが来て、2人はビールを注文した。

 「ところで、サハリンBのパイプの納入は、終わったんですよね?」

 五井商事鋼管輸出部は、全長637キロメートルのガスパイプラインなど、約35万トン、金額にして3億ドル(約3億5000万円)を超えるパイプを納め、サハリンBの最大のパイプ納入業者となった。ロシア・コンテンツ(ロシアからの調達比率)を増やせるよう、コーティング(鋼管の表面加工)をロシア国内でやるという提案が評価されたのが、契約を獲得できた1つの理由だった。

 「ようやく終わったよ。……色々大変だったけどねえ」

 高塚は、意味ありげな微笑。

 「結構、ロスったそうですね」

 運ばれてきたビールを手に、金沢がいった。

 「結構、ロスっちゃったよ」

 高塚が苦笑いする。

 「値段を仕切ってたんですか?」

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「終章 クレムリンの攻撃犬(4)」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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