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エピローグ(1)

2008年6月16日(月)

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 その年(2007年)の7月中旬――

 金沢は、財務部の若手らと一緒に、サハリンBの環境フォーラムに出席していた。

 会場は、地下鉄東西線竹橋駅に直結したKKRホテル東京10階の「瑞宝の間」だった。

 燦めく宝石のような照明の下、正面奥に真っ白いスクリーンがあり、それを取り囲むように凹の字型にテーブルが並べられていた。

 向って左側のテーブルの奥に、国際協力銀行の資源金融部長や環境審査室の課長など4人が並んですわり、手前のほうに、五井商事、東洋物産、融資を予定している邦銀などからの出席者がすわっていた。彼らと対峙する側のテーブルの奥に、サハリン・リソーシズ社のオランダ人や、副CEOとなったガスプロムから出向しているロシア人がすわり、手前のほうに、アース・ウィンズ、サハリン環境ウォッチ、パシフィック・エンバイロメントなどからの出席者がすわっていた。会場の後方に数列に並べられた椅子には、NGO、学者、マスコミなど、雑多な出席者が100人くらいすわっている。

 「それでは時間になりましたので、始めたいと思います」

 マイクを持ってスクリーンの前に立った、デンマーク人の男性がいった。30歳すぎで、すらりとした長身。進行の公平さを期すため国際協力銀行が司会を委託した環境・CSR(企業の社会的責任)コンサルティング会社の代表者だ。

 「皆様、こんにちは。サハリンB第2フェーズの環境フォーラムに、ようこそおいでくださいました。今日は、国際協力銀行主催による13回目のフォーラムとなります」

 デンマーク人の日本語はぺらぺらで、日本の長い組織名をいうときだけ、多少スピードが遅くなる程度。

 「今日は、同時通訳で行わせていただいております。レシーバーのチャンネル1が日本語、チャンネル2が英語となっております」

 出席者には、黒いウォークマンのようなレシーバーが配られていた。同時通訳者のブースが会場の後方にある。

 「本日のプログラムに入る前に、出席者をご紹介したいと思います」

 司会者が、国際協力銀行とサハリン・リソーシズ社からの出席者を一人一人紹介した。

 続いて、国際協力銀行の資源金融部長が、プロジェクトの現状について説明する。

 「……ガスプロムへの株式譲渡は4月18日に完了し、サハリン・リソーシズ社の株主構成は、ガスプロムが50パーセント・プラス1株、アングロ・ダッチ石油が27.5パーセント・マイナス1株、東洋物産が12.5パーセント、五井商事が10パーセントになりました。また、EBRDは、融資からの撤退を正式に表明しました」

 金沢は、英語で説明する資源金融部長を、じっと見詰めていた。

 EBRDだけでなく、前サハリン・プロジェクト部長が予言したとおり、米輸銀とECGD(英国輸出信用)も、ほぼ絶望という状況になっていた。米国務省は米輸銀に対し、サハリンBに融資をするなと指示を出し、ECGDも保険の付保を拒否する構えだ。

 背景には、米国による東欧諸国へのミサイル防衛施設配備計画やNATO(北大西洋条約機構)の東方拡大に反発したロシアが、欧州での通常戦力の上限を定めた欧州通常戦力条約の履行を一時停止したことがある。

 リトビネンコ暗殺事件の容疑者として、KGBの元将校アンドレイ・ルゴボイの引渡しを求める英国とロシアの関係は、ますます険悪になっている。東シベリアのコビクタ・ガス田の開発権益を保有しているBPが、免許剥奪の脅しをかけられ、開発権をガスプロムに譲渡することに同意したことも、両国の関係悪化に拍車をかけていた。

 「……有難うございました」

 資源金融部長の説明が終わり、司会のデンマーク人がいった。

 「それでは続いて、サハリン・リソーシズ社のほうから、プロジェクトの現状について、プレゼンテーションをしていただきます」

 右手のテーブルの奥のほうにすわった大柄な男性が頷いた。アングロ・ダッチ石油から、プロジェクト・ディレクターとして出向しているオランダ人だった。

 「皆様、こんにちは。このような機会を得て、プロジェクトの進捗状況についてお話しできることを、大変嬉しく思っております」

 黒縁眼鏡のオランダ人は、太くて大きな声で話し始めた。

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「エピローグ(1)」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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安形 哲夫 ジェイテクト社長