「データで斬る経済危機」

データで斬る経済危機

2009年2月17日(火)

危機のインパクトは、これからが本番

米国実質経済成長率への影響は2010年半ばに顕在化

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 今回の世界金融危機は世界経済に激震をもたらしました。危機の“マグニチュード”を数値化すると、どの程度のインパクトを持つかが分かります。以下では、“揺れ”の大きさを「世界経済全体へのインパクト」「金融市場へのインパクト」「米国経済へのインパクト」という3つの角度から測ってみます。

1980〜90年代に起きた4つの金融危機

 まず「世界経済全体へのインパクト」について見てみます。

 世界経済はこれまでも何度か金融危機を経験してきました。1980年代以降のものとしては、次のようなものがあります。

 まず、80年代後半に米国で貯蓄金融機関(S&L=Savings and Loan Association)危機が起きています。小口預金を集めて主に住宅ローンで運用していたS&Lの多くが、80年代の規制緩和を受けて進出した不動産関連融資やジャンク債投資に失敗。多額の不良債権を抱えて経営危機に陥ったものです。

 90年代には、日本のバブル崩壊後の金融危機がありました。プラザ合意後の金融緩和によって生じた株式や不動産のバブルが崩壊。その影響で巨額の不良債権が発生し、日本の金融システムが動揺した金融危機です。

 97年には、アジア新興国でアジア通貨危機が起きました。これは、海外から大量に流入した外貨の短期資金が不動産投機に回っていたところに、7月に資金が一気に引き揚げられたために生じた激しい信用収縮です。資金の急激な引き揚げは、通貨上昇による輸出鈍化で、成長の持続可能性が懸念されたために起きたものでした。

 そして、98年には米国でロング・ターム・キャピタル・マネジメント(LTCM=Long-Term Capital Management)危機が起きています。欧米の金融機関から巨額の借入を行い、1000億ドルを上回る市場運用を行っていたヘッジファンドのLTCMが、ロシア国債投資で運用に失敗。経営危機に陥って生じた金融市場の緊張です。

金融機関の損失額を過去の危機と比べてみると

 では、今回の金融危機は、これまでの危機と比べた時、どの程度のインパクトを持っているのでしょうか。金融機関の損失額を世界GDP(国内総生産)比で見たものが図1です。80年代以降の金融危機と比較して、そのマグニチュードを測ってみました。

 その前に、損失額やGDPとして何を使うかについて説明しておく必要があります。単純に名目の計数を使う方法もありますが、これでは現在と過去の数字は単純に比較できません。10年前の1ドルの価値と現在の1ドルの価値は、物価変動に伴い変わってくるためです。
 
 そこで、ここでは金融機関の損失額とGDPは、物価上昇分を割り引いた実質ベースに換算しました。

(備考)1. サブプライムの米国分の損失は2009年1月末の国際通貨基金(IMF)世界金融安定性報告書の計数。S&L及びアジア通貨危機の損失は2008年10月のIMF世界金融安定性報告書の計数。LTCM及び日本のポストバブルの損失は財務省資料から実質化。今回の危機の欧州の金融商品にかかる損失は2008年10月のイングランド銀行金融安定性報告書の計数から計算。
2. アジア通貨危機はインドネシア、韓国、マレーシア、フィリピン、タイ。

 米国のLTCM危機のマグニチュードは、世界GDP比で見れば0.1%と微々たるものでした。

 揺れがやや大きいと言われていた米国のS&L危機やアジア通貨危機は1%ほど。日本におけるバブル崩壊後の金融危機も1.8%の規模でした。

 今回の金融危機のマグニチュードは6.5%と日本のポストバブルの3.6倍です。今回の金融危機がこの20年余りの金融危機の歴史で見ても、極めて大きな規模であることが、この数字からも確認されます。

 ここまでイベント全体のマグニチュードを見ましたが、次に、今回の危機が金融市場にどの程度のインパクトを与えたのかを見てみましょう。金融市場の緊張はリスクプレミアムに最もよく表れます。

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著者プロフィール

鈴木 晋(すずき・すすむ)

独立行政法人国際協力機構研究所研究員。1988年東京大学経済学部卒業、同年経済企画庁入庁。内閣府国際経済担当企画官、連合総合生活開発研究所主任研究員、国際協力銀行開発金融研究所主任研究員などを経て2008年10月より現職。著書に『データで斬る世界不況 エコノミストが挑む30問』(日経BP社)がある。

 


このコラムについて

データで斬る経済危機

 2008年秋の“リーマンショック”を境に、世界経済は激変を続けています。「100年に1度」「世界恐慌の再来」「新自由主義の終焉」――。様々な言葉で語られるこの経済危機。ともすれば、情緒や感情だけで語られることもあります。

 新たな資本主義の姿を模索するには、これまでにない発想が必要なのも確かですが、まずは足元で何が起きているのかを、しっかりととらえておく必要があるでしょう。危機をチャンスに変える力は、危機の本質を見極め、その先を考える冷静な判断力があってこそ発揮されるはずです。

 このコラムでは、6人の執筆者が最新の経済指標を深く読み解き、経済危機の真実の姿を明らかにしていきます。数字を丹念に追うことで、これからの日本、そして世界経済の姿を読み解くヒントが見えてきます。

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