「データで斬る経済危機」

巨額の財政出動、分かれる評価

【特別編】ケインズ主義は復活したのか?

バックナンバー

2009年4月30日(木)

1/3ページ

印刷ページ

  • 4月23日発売
    小峰隆夫 他著、
    日経BP社、
    1800円(税別)
  •  好評連載中の本コラム「データで斬る経済危機」が書籍になります。タイトルは『データで斬る世界不況 エコノミストが挑む30問』。最新のデータをもとに、本コラムの執筆陣である6人のエコノミストが日本、そして世界経済のこれからを読み解きます。全部で30のテーマを設定。補論や経済危機に関する読み物のほか、役立つデータも充実させました。

     これからの世界経済の行方を見据えるのに欠かせない1冊です。ぜひお読みください。なお、コラム「データで斬る経済危機」の連載はこれからも続きます。気鋭のエコノミストによる、最新のデータ分析をこれからもご期待ください。


 今月初めにロンドンで行われた20カ国・地域(G20)首脳会合(金融サミット)では、各国の財政出動が重要であることを、首脳レベルで改めて合意。各国の証券市場に好材料として受け止められました。わが国でも、15兆円もの大規模な財政出動を伴う経済危機対策が決定され、国会に提出されました。

 欧米のエコノミストの間では、景気対策に財政政策を使うことは避けるべきであるというコンセンサスがありました。今回の金融通貨危機に際し、各国においてオピニオンに大きな変化があり、一度死んだはずのケインズ主義が復活したとする意見も聞かれます。本当のところは、どうなのでしょうか?

70年代以降「死んだ」と言われたケインズ

 ケインズ主義、ケインズ学派が何を示すのかは、実は議論が分かれるところなのですが、ここでは筆者の独断で、不況の時には財政支出の拡大や減税、政策金利の引き下げ(総需要管理政策)が、景気の回復に役立つとする考え方であるとします。

 これは、イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズ(John Maynard Keynes)が、『雇用、利子および貨幣の一般理論』を1936 年に出版して以来、経済学、経済政策に大きな影響を与えてきた考え方です。大恐慌に対する経済政策の指導原理として広い影響を持ったとされています。

 ケインズ経済学は、第2次世界大戦後、60年代までマクロ経済学の主流として受け入れられていました。すなわち、マクロ経済変動(特に不完全雇用問題)についてはケインズ経済学を利用し、そのほかの経済現象については、それまでの新古典派的分析手法(ミクロ経済学的手法)を用いるという考え方で、ポール・サミュエルソンを代表とする新古典派総合(the neoclassical synthesis)が主流となりました。

 しかし、70年代の経済の停滞とインフレが両方発生するスタグフレーションの発生後、財政支出の拡張と金融の緩和は物価の高騰だけを招いたと厳しく批判されました。また、学会においても、ミクロ経済学的な基礎づけがないことなどから、既に60年代から見直しが進んでいました。

 70年代以降は、合理的期待仮説などに基づき、総需要管理政策の有効性を否定するマクロ経済学(特に実物的景気循環論)が台頭しました。「ケインズは死んだ」という厳しい評価も聞かれました。

ニューケインジアン、そして新新古典派総合へ

 ケインズ経済学への批判を受けて発展してきたのがニューケインジアンと呼ばれる学派で、ケインズ経済学へのミクロ経済学的な基礎づけを行いました。

 そして、最近のマクロ経済学の学会における大まかなコンセンサスは、新新古典派総合(the new neoclassical synthesis)(注1)と呼ばれるもので、実物的景気循環論の動学的確率的一般均衡モデル(the dynamic stochastic general equilibrium model)という分析道具とニューケインジアンの物価・賃金の硬直性を組み合わせて、現実の経済の動きを説明しようとする考え方です。

(注1) M. Goodfriend, R. G. King (1997) "The New Neoclassical Synthesis and the Role of Monetary Policy", WP 98-05, Working Paper Series, Federal Reserve Bank of Richmond.

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。



関連記事

Keyword(クリックするとそのキーワードで記事検索をします)

Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
内容は…
この記事は…
コメント2 件(コメントを読む)
トラックバック
著者プロフィール

桑原 進(くわはら・すすむ)

元政策研究大学院大学准教授(現内閣府経済社会総合研究所主任研究官)。産業カウンセラー。1989年東京大学経済学部卒業、同年経済企画庁入庁。99年在チェコ日本国大使館一等書記官。内閣府、連合総合生活開発研究所などを経て2007年に政策研究大学院大学。2010年8月より現職。著書に『経済指標を読む技術―統計データから日本経済の実態がわかる』(共著)、『データで斬る世界不況 エコノミストが挑む30問』(共著)、『政権交代の経済学』(共著)。



このコラムについて

データで斬る経済危機

 2008年秋の“リーマンショック”を境に、世界経済は激変を続けています。「100年に1度」「世界恐慌の再来」「新自由主義の終焉」――。様々な言葉で語られるこの経済危機。ともすれば、情緒や感情だけで語られることもあります。

 新たな資本主義の姿を模索するには、これまでにない発想が必要なのも確かですが、まずは足元で何が起きているのかを、しっかりととらえておく必要があるでしょう。危機をチャンスに変える力は、危機の本質を見極め、その先を考える冷静な判断力があってこそ発揮されるはずです。

 このコラムでは、6人の執筆者が最新の経済指標を深く読み解き、経済危機の真実の姿を明らかにしていきます。数字を丹念に追うことで、これからの日本、そして世界経済の姿を読み解くヒントが見えてきます。

⇒ 記事一覧

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事

  • いま、歩き出す未来への道 復興ニッポン