「データで斬る経済危機」

“逆デカップリング”に苦しむアジア

激しく落ち込んだ本当のメカニズムとは?

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2009年5月7日(木)

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  •  最新のデータをもとに、本コラムの執筆陣である6人のエコノミストが日本、そして世界経済のこれからを読み解いた本『データで斬る世界不況 エコノミストが挑む30問』が出版されました。全部で30のテーマを設定。「7%に迫る日本の失業率」、「アメリカ経済はいつ反転するか」など、さまざまな手法で分析したデータを用いて、確かな視点で語られます。経済の基本的な仕組みや不況のメカニズムもわかりやすく解説します。

    小峰隆夫 他著、日経BP社、1800円(税別)


 世界的な金融危機で欧米の経済は大きな打撃を受けています。金融危機が起きた当初、アジア経済の行方については2つの考え方がありました。

「デカップリング」でも「リカップリング」でもなかった

 1つは「デカップリング論」です。これは、欧米は打撃を受けてもアジアは相対的に高い成長を続けるだろうというものです。2008年前半頃までは、欧米経済がスローダウンする中で、依然としてアジア地域は比較的高い成長を続けていたので、このデカップリング論には説得力がありました。

 もう1つは「リカップリング論」です。これは、欧米経済のスローダウンはアジアにも影響し、世界的に成長が鈍化するという考え方です。確かに、アジア地域の成長の源泉は欧米への輸出です。欧米経済がスローダウンすればアジアの輸出も鈍化し、やがてはアジア経済がスローダウンするのは避けられないという議論もなるほどと思わせるものがありました。

 では、現実はどうなったでしょうか。アジア地域の2008年10〜12月のGDP(国内総生産)成長率を、季節調整値の前期比年率で見てみると、日本が12.1%減、タイ20.9%減、台湾18.9%減、韓国18.8%減、シンガポール16.4%減でした。一方、震源地である欧米の10〜12月期の成長率は、米国が6.3%減、ユーロ圏は6.2%減でした。

図1 GDP成長率の推移(%)

  2006年 2007年 2008年 2008年 2009年
1-3月 4-6月 7-9月 10-12月 1-3月
米国 2.8 2.0 1.1 0.9 2.8 ▲ 0.5 ▲ 6.3 ▲ 6.1
ユーロ圏 3.0 2.7 0.7 2.6 ▲1.0 ▲1.0 ▲6.2 -
日本 2.0 2.4 ▲ 0.6 1.4 ▲ 4.5 ▲ 1.4 ▲ 12.1 -
韓国 5.2 5.1 2.2 4.4 1.7 1.0 ▲ 18.8 0.2
シンガポール 8.4 7.8 1.1 12.2 ▲ 7.7 ▲ 2.1 ▲ 16.4 ▲ 19.7
台湾 4.8 5.7 0.1 2.9 ▲ 2.4 ▲ 12.4 ▲ 18.9 -
タイ 5.2 4.9 2.6 5.4 0.4 0.7 ▲ 20.9 -
中国 11.6 13.0 9.0 9.6 10.4 5.2 2.4 6.2

資料出所:米国商務省、日経FinancialQUEST他
(注)四半期の成長率は、季節調整済み前期比年率。タイ、台湾は筆者が季節調整。中国は岡田恵子法政大学教授試算による。

 つまり、2008年の10月以降(つまりリーマンショック以後)現実に生じたことは、「欧米は落ち込むがアジアは元気」というデカップリングでも、「アジアも欧米並みに落ち込む」というリカップリングでもなく、「欧米以上にアジアが落ち込む」という想定外の現象だったのです。我々はこれを「逆デカップリング」と呼ぶことにします。

公式統計からは分からない中国の「本当の」成長率

 激しく落ち込んだアジア経済の中で、中国は、前年同期比では2008年10〜12月6.8%増、2009年1〜3月6.1%増と、減速したとはいっても相対的には高めの成長を続けているように見えます。しかし、これは前年同期比ですから、前述の前期比と比較することはできません。中国についても季節調整済み値の前期比年率成長率を知りたいのですが、中国の公式統計ではこれが公表されていません。そこで、法政大学大学院の岡田恵子教授が独自の方法で季節調整済み前期比年率を試算しました。

 これによると、中国の2008年10〜12月の成長率は2.4%増となっています。中国もまたかなりのスローダウンとなっていることが分かります(同じ方法で2009年1〜3月の前期比を計算すると6.2%増となり改善しています)。

 しかし、よく考えてみると、震源地の欧米よりも、その影響を受けたアジア地域の方が大きな落ち込みを示すという逆デカップリング現象が起きるのは不思議な気がします。デカップリングかリカップリングしか想定されていなかったのは、誰も逆デカップリングのような現象が起きるとは想像していなかったからでしょう。

 ところが世の中の多くの人は、これを不思議だとは思っていないようです。これは、「アジア経済はこれまで輸出依存型で成長してきたが、欧米の経済停滞によってその輸出が低迷しているので、大きく落ち込んでいるのだ」という説明に納得しているからだと思われます。

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著者プロフィール

小峰 隆夫(こみね・たかお)

小峰 隆夫

法政大学大学院政策創造研究科教授。日本経済研究センター研究顧問。1947年生まれ。69年東京大学経済学部卒業、同年経済企画庁入庁。2003年から同大学に移り、08年4月から現職。著書に『日本経済の構造変動―日本型システムはどこに行くのか』、『超長期予測 老いるアジア―変貌する世界人口・経済地図』『女性が変える日本経済』、『データで斬る世界不況 エコノミストが挑む30問』、『政権交代の経済学』、『人口負荷社会(日経プレミアシリーズ)』ほか多数。新著に『最新|日本経済入門(第4版)』

澤井 景子(さわい・けいこ)

元連合総合生活開発研究所主任研究員。1994年東京大学経済学部卒業、同年経済企画庁入庁。内閣府国民生活局調査室補佐などを経て2008年より連合総研。著書に『データで斬る世界不況 エコノミストが挑む30問』(日経BP社)がある。『政権交代の経済学』(共著)。



このコラムについて

データで斬る経済危機

 2008年秋の“リーマンショック”を境に、世界経済は激変を続けています。「100年に1度」「世界恐慌の再来」「新自由主義の終焉」――。様々な言葉で語られるこの経済危機。ともすれば、情緒や感情だけで語られることもあります。

 新たな資本主義の姿を模索するには、これまでにない発想が必要なのも確かですが、まずは足元で何が起きているのかを、しっかりととらえておく必要があるでしょう。危機をチャンスに変える力は、危機の本質を見極め、その先を考える冷静な判断力があってこそ発揮されるはずです。

 このコラムでは、6人の執筆者が最新の経済指標を深く読み解き、経済危機の真実の姿を明らかにしていきます。数字を丹念に追うことで、これからの日本、そして世界経済の姿を読み解くヒントが見えてきます。

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