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私に妙案があります

  • 茶屋 二郎

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2009年5月9日(土)

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 利根川沿いに上って熊谷と深谷の中間にある妻沼の宿の近くに来ると、向こうから誰かが駆けて来る。喜作がよく見れば懐かしい伝蔵の姿だった。伝蔵は栄一の父の妹きいの息子で栄一より二歳年下である。

「おい、伝蔵。喜作だ、おいらだ」
「喜作さん、栄一さんも一緒か。よかった」

 伝蔵は大勢の一団を率いている武士がまさか両人だとは思えなかった。

「お二人の父上が妻沼の宿でお待ちです」
「手紙を書いておいたので迎えにきてくれたのか」
「言いにくいだが、岡部の代官が兄さんたちを捕らえようと待っているので、村には間違っても行くなといわれて一足先にきただ」

 栄一に厭な予感が横切った。案の定妻沼の宿の二階では父市郎と喜作の父文左衛門が待っていた。村を出てまだ一年も経たないにも拘わらず二人ともひどく年を取ったように思えた。

「お前たちが村を出てから長七郎の一件で、新五郎は村預(むらあずかり)、平九郎も宿預(やどあずかり)の刑で謹慎させられておる」
「えっ、二人が何をしただ」
「お前らが土蔵に入れた刀剣が見つけられただ」
「父上、申し訳ありません。でもお蔭で乃公と喜作は一橋家の家臣になれました。必ず京都に戻ったら御前にお願いして二人を助けてもらうから許してください」
「親不孝な者達だ。お千代とおよしが隣村の宿根で待っている。会って行ってやれ」

 仕官ができたことで一安心した市郎の言葉に喜作が最初に外へ飛び出した。栄一は桑の木陰に嬰児(みどりご)を背負った千代を見つけた。最初に二人で会った夏祭りの時と同じように夕日が千代をまぶしく照らしている。

「お千代、歌子は息災か」
「えー、市太郎の生まれ代わりですから、抱いて上げて下さい」

 赤子は肥立ちもよさそうで丸々と肥っていた。

「とうとう本当のお侍になられたのですね」
「必ず長七兄さんは助けるからな。お千代、待っていてくれ。平九郎も一橋家に奉公させるようにする。母上はお元気か」
「ええ、いつも歌に菓子などをくれて可愛がってくれます」
「そうか、これから御用で京都にすぐ戻らねばならない。くれぐれも両親を頼むぞ」

 千代はせめて一晩でも一緒にいてくれればと願ったが口には出せなかった。

 栄一は抱いていた歌子を急に千代に戻すと、

「歌を頼む」

 己の考えを貫くばかりに家族に辛い思いをさせているかと思うと栄一はもうその場にいられなかった。

 岡部村の代官所の前を葵の紋の旗を立てた一陣の集団が通り過ぎて行く。幕臣になって先頭を歩く栄一と喜作を代官の若森権六は捕らえるわけにはいかずに指を銜(くわ)えたまま見過ごすしかなかった。

「権六、今度帰るときは貴様を跪かせてやるだ」

 栄一は代官を睨みつけながら固く胸に誓った。一方歌子を背中におぶった千代は役人に見つからないように畦道をひた走って血洗島村の家へ戻るのだった。

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