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必ず臆病な振る舞いはせぬように

  • 茶屋 二郎

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2009年5月29日(金)

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 浅草本願寺に「尊王恭順同志会 彰義隊」の看板が高々と掲げられると、次から次へと希望者が押しかけるようになりすぐに隊士は二百人ほどに膨れ上がった。そこに江戸城の総責任者である大目付川勝丹後守から喜作に登城命令が届いた。

 喜作は裃姿で隊士百名ほどを連れて堂々と西の丸に登城すると、御使番が津山藩主松平三河守にお目通りを伝えた。

「渋沢喜作、その方らが作った彰義隊を勝安房守も心配されて城内では評判になっている。慶喜公にはすでに恭順謹慎されておられるによって、まさか一騒動起こす訳ではあるまいな」
「三河守、そのようなことは考えておりませぬ。ただ御前が上野に謹慎されておるだけに、つつがないように護衛をつかまつっておるだけです」
「あいわかった。昨日寛永寺座主の輪王寺法親王さまが上様の恭順嘆願のために京都に向けてご出発されたばかりだ。きっと粗暴なふるまいはすまいぞ」

 三河守は安心したのか、その場で奥御右筆だった喜作に彰義隊頭取の御達しを正式に手渡した。

榎本釜次郎(武揚) 「国立国会図書館 近代日本人の肖像」より転載
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 しかし上野の山では主戦派である見廻組(みまわりぐみ)と新撰組、それに徳川家の存続を願う開陽丸艦長榎本釜次郎らの幕臣達が慶喜のいる大慈院の四畳半の居間の周辺にたむろしていて、逆に彼等を諌めようとする幕臣山岡鉄太郎らと睨み合いを続けて騒然としていた。

 また彰義隊に呼応するかのように正規の幕兵八千人が事を挙げようと次々と江戸城から脱走していた。陸軍総裁である勝は脱走を思い留まるように説諭に行って、逆に従卒二名が鉄砲弾で胸を貫かれる始末であった。

 彰義隊への志願者は日々膨れ上がり第四部隊まで構成できる千人にも達した。いまやその頭取になって天下の一大事の渦中に置かれた喜作は大役が務まるかどうか内心は心細くなっていた。思い悩んだ末に喜作は一人駿河台の小栗忠順の自宅を訪れた。元陸軍と軍艦奉行であった小栗に彰義隊の隊頭就任への依頼をするつもりであったのである。小栗はやつれていたが、喜作の話を聞き終わるとキラリとその鋭い目を向けた。

「渋沢成一郎とか申す者、そなたの話には勝算はない。お上に戦う御意思がおありならともかく、拙者は勝てぬ戦の采配は取らぬ」

 取り付く島もなく小栗は立ち上がっていた。気落ちした喜作が隊に戻ると、逆に朗報が待っていた。勝安房守から彰義隊に江戸市中治安取締りの命が届いていたのである。すぐさま隊士は朱の字の「彰」と「義」が入った丸提灯を持って、昼夜の別なく大手を振って巡察におもむいた。その頃、徳川家を見限った小栗忠順は一族と共に領地の上州権田村へと去って行った。

 四月になると官軍の先鋒は品川、新宿、板橋まで進駐してきていた。

小栗忠順 (「国立国会図書館 近代日本人の肖像」より転載)
画像のクリックで拡大表示

 その十一日、漆黒の闇の寅刻に慶喜は黒木綿の羽織に小倉袴をつけ麻裏の草履をはいて上野大慈院を密かに立ち退いた。喜作も彰義隊全員千二百人を引き連れて千住の宿外れまで見送りに出向いた。慶喜一行が見えなくなるまで喜作は頭を下げ続けた。水戸への随行を願い出たにも拘わらず慶喜の許可がおりず、千住大橋のたもとで別れざるを得なくなり溢れ出る悔し涙が止まらなかったからでもあった。

 その日の払暁に勅使が江戸城に入り、西の丸の大広間において江戸城の明け渡しと幕軍の解散、徳川慶喜水戸隠退の朝命が下された。

 江戸城の官軍への引渡しは無事に済んだものの、幕府海軍副総裁である榎本は軍艦八隻の引渡しを拒んで品川沖から行方をくらました。歩兵奉行の大鳥圭介さえも幕兵を率いて逃亡した。幕府代表の勝安房守は顔を青くして茫然自失となったままであった。

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