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新政府より帰国せよとの命です

  • 茶屋 二郎

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2009年5月30日(土)

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五 幕府崩壊

 一八六七年九月三日徳川昭武一行十八名はヨーロッパ歴訪に出発した。巡歴国はスイス、オランダ、ベルギー、イタリア、イギリスの五カ国である。栄一は手帳に訪問地で特に印象に残った物産や見学場所を書き記した。

 スイスでは織物細工所、時計製作所、オランダでは鉄砲製造所、軍艦製造所、ダイヤモンド製造所、ベルギーでは陸軍学校、製鉄所、そして最後の訪問地イギリスではバンク・オブ・イングランド内の両替局、紙幣製作所に最も深い感銘を受けた。

 そしてその旅行から懐かしいパリに戻ってきたのは真冬の凍天が続く十二月の中旬であった。歴訪使節団と水戸から来た攘夷派の小姓達は御用が終わって帰国することとなった。残った人員は御守役の山高と補佐役の栄一以下都合七人である。

 本拠地のペルゴレーズ館に戻った徳川昭武はいよいよ修学一途の留学生活を始めることにした。そしてその日から年三万フランで賃借したペルゴレーズ館は仮屋形と呼ばれた。教育係のヴィレット陸軍中佐四十六歳も家族と一緒に仮屋形に同居した。栄一は一留学生になった昭武に心おきなく断髪をさせて、洋服を着させ靴を履かせた。ヴィレット中佐もすぐさま昭武の毎日の修学課程を決めた。毎朝七時の起床、朝食後すぐに馬術、体育の稽古、九時半からは図画、歴史、地理、科学等の授業をフランス語で受ける。それらが午後三時に終わってから散歩、夕食は六時に取り夜は翌日の授業の下読み、作文、暗誦の後、十時に就寝という日課で寸暇もない日々であった。

 一方栄一も仮屋形の実質的な最高責任者として俗事や支払い、それに日本との連絡に忙殺されて日記を書く聊(いささ)かの余地もないほど繁忙になった。毎月御国から送られてくる大事な五千ドルで家賃と料理人、門番、馭者などの経費を賄わなければならなかった。しかし年を越してもヨーロッパ各国歴訪に使用した十万ドルは勿論、各月の送金もまだなかった。

 このような非常事態を迎えた栄一は幕府が領事として雇っていた銀行家フロリ・ヘラルドに依頼して本格的な経済実務の勉強をすることにした。ヘラルドは懇切丁寧にバンクや証券取引所、会計簿記などの仕組みを教えてくれた。そのお蔭で今まで倹約した二万ドルの剰余金でフランスの公債証書と蒸気車債権を買うことができた。高額な金利がつくのでいざという時の予備金にするつもりであった。

フロリ・ヘラルド
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 一八六八年一月の終わりになってすでに日本に戻っていた杉浦愛蔵から一通の御用状を受け取った。栄一はその簡略な行間から日本で一大事が勃発したことを知った。

「極秘改態(かいたい)御変革の儀 慶応三年十月十四日征夷大将軍徳川慶喜上表して将軍職を辞して大政を奉還せんことを請う 朝廷その政権奉還の請を允(ゆる)す」

 冷静にその書状を読んだものの政権返上がいかなる御趣意であるかは思いつかなかった。ちょうど日本からパリに到着したばかりの外国奉行栗本貞次郎に御用状を回覧したところ、

「これは虚説だ。このようなことはあり得ないー」

 日本を立つまで何も幕府の体制に変わりがなかったことを知っている栗本は真に驚きながらも否定し続けた。しかし逆に栄一が顔色一つ変えないことで裏腹な言葉が飛び出した。

「渋沢、その方落ち着いていないで昭武殿とすぐに日本へ帰る支度をせよ。某(それがし)もすぐに帰国する」

 急に幕府崩壊があり得ると感じた栗本は自分の身上が不安で帰心矢の如しになっていた。 

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