(前回から読む)
竹森 『強欲資本主義 ウォール街の自爆』の中で、バンク・オブ・アメリカがメリルリンチを吸収した行動に触れられています。うまくいかないだろうと書かれたのは慧眼だと思います。その後どんどん問題が浮かび上がってきましたから。どうしてそう思われたのですか。
神谷 バンク・オブ・アメリカは、ネイションズ・バンクがバンク・オブ・アメリカを買収し、買った銀行名を使っているものです。ネイションズ・バンクはモンゴメリー証券という小さいブティック型の投資銀行を買い、さらにバンク・オブ・アメリカを買いました。
でも、モンゴメリー証券の創業者始め、幹部はもう全部抜けてだれもいません。ケン・ルイス自身、いわば「コニャックの空瓶」を売って出ていったインベストメント・バンカーのことが大嫌いなわけです。モンゴメリー証券は、コニャックの中身が消えて、空瓶となったわけです。こうして投資銀行部門の拡大に1回失敗しているのに、メリルを買ってどうやって成功するのかと思うのです。

神谷 秀樹(みたに・ひでき)
ロバーツ・ミタニLLC創業者兼マネージング・ディレクター。1953年東京都生まれ。小学校時代をタイで過ごし、75年早稲田大学政経学部経済学科卒業後、住友銀行入行。ブラジル・ミナス・ジェライス連邦大学留学を経て、84年ゴールドマン・サックス証券に移籍。92年に日本人では初めて米国で投資銀行の「ミタニ&カンパニー・インク」を設立、95年に「ロバーツ・ミタニLLC」に社名変更。米国在住。著書に『ニューヨーク流たった5人の「大きな会社」』『さらば、強欲資本主義
』(いずれも亜紀書房)『強欲資本主義 ウォール街の自爆
』(文春新書)がある。最新刊は共著『世界経済はこう変わる
』(光文社新書)。これまでに大阪府海外アドバイザー、フランス国立ポンゼショセ大学国際経営大学院客員教授などを兼務。日経ビジネスオンラインでは創刊した2006年4月から「日米企業往来」を連載中。
メリルのヘッドだった、元ゴールドマン・サックスのジョン・セインについても、最初は彼が次期頭取だと言っていたのに、結局、全然合わなくて、すぐにクビにしてしまった。
銀行業というのは、もともとは農耕民族型のビジネスだと思います。毎日預金を一生懸命集める、毎日住宅ローンを出す、毎日会社の状況はどうなのか。それは、田んぼに出ていって、稲が育っているかどうかを見に行くようなものです。
それに対して、インベストメント・バンキングというのは狩猟民族型のビジネスです。毎日、山に登ってシカかクマを撃ってくる。登っていったところが、弾が外れてしまった。翌日、今日こそ撃つと言って、お腹が空いたまま山を登る。毎日畑や田んぼに出て、麦や稲が育っているかを見るのと、山に登ってハンティングに行くようなフィーで生きていていくのとは、異なる人種なんです。
「商業銀行」と「投資銀行」は1つ屋根の下では暮らせない
竹森 ヨーロッパでもそうですか。
神谷 性格としては同じです。良い農民は良い猟師にはなれなくて、良い猟師が良い農民になれないように、商業銀行と投資銀行業務を1つ屋根の下で調和させてうまくやるというのは、これは基本的に無理なテーマなんです。
竹森 なるほど。では、野村ホールディングスがリーマン・ブラザーズのアジアや欧州部門などの社員を引き受けたことについては、どう評価されますか。
神谷 日本人の証券会社の幹部やコマーシャルバンカーの中には、ウォール街への憧れというのがとても強くあります。もうつぶれたモデルなのに、そのモデルに入れば金融権力をもっと強く持てるだろうし、収益力ももっと上がると思ったのでしょう。
僕は大きくなることはいいことだというウォール街の仕事は、完璧に破綻したと思っています。世界最大のシティバンクがつぶれ、世界最大の保険会社がつぶれ、世界最大の住宅金融会社がつぶれました。リーマン・ブラザーズがつぶれたときに、大きいことはいいことだという考えは、まったく破綻したのです。
竹森 要するに、大き過ぎると管理が不可能になるということですね。
神谷 何兆ドルものバランスシートなど、誰も管理できません。それでも何兆ドルのバランスシートを作ることを目指すのは、間違ったモデル、失敗したビジネスモデルを後から追いかけていくということです。僕はこれには賛成できません。
これからは、専門性の時代です。投資銀行は投資銀行に戻る時代、商業銀行は商業銀行に戻る時代です。いずれも顧客サービス業に戻る時代だと思います。
竹森 自分のポジションを持たないでね。
神谷 そうでないと、お客はついてきません。お客は専門性の高い専門金融機関に行くのです。ある1つの銀行と全部の取引をしますなどというのは、これからはあり得なくなっていきます。
自主的に各部門を独立させ、それぞれに競争力を持ってやっていくべきです。そこで大事なのは、質を追求する文化です。質を追求して、質を追いかけていけば、最終的には競争力の強いビジネスができて、数字がついてくるという思想です。一般企業であっても、銀行であっても、あるいは国家であっても、これからはこの道を進むべきだと思います。ところが大半は、いまだに数字を追いかけています。儲けるためにはコストをカットしろという方向です。
「成功報酬」があるなら「不成功制裁」もあるべき
竹森 責任のある金融機関という金融の原点に戻るために、レバレッジ規制や報酬規制はどの程度有効なのでしょう。いま、経済学者や金融の専門家から出ているのは、この2つについての規制です。しかし、「数字」をコントロールするだけで十分なのでしょうか。それとも、これはカルチャーの問題で、人間の本能から出ていることなので規制だけでは十分な効果は期待できないのでしょうか。
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1956年東京生まれ。慶応義塾大学経済学部教授。81年同大学経済学部卒業、86年同大学院経済学研究科修了。89年米国ロチェスター大学経済学博士号取得。主な著書に『







