「データが語るホントの経済」

不況が自殺を増加させるのはなぜか

背景にある2段階で労働者を「放出」するメカニズム

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2009年6月12日(金)

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 わが国では、近年自殺者数が高い水準で推移しており、大きな社会問題になっています。2006年には、自殺対策基本法が制定され、2007年には自殺総合対策大綱も決定され、政府を挙げた取り組みも始まるほど、深刻化しています。足元でも失業の増大が自殺者数の増大につながるのではないかと懸念される中、失業率がすでに上昇し始めており、対策の加速が求められています。

なぜ、ここまで自殺問題は深刻化したのか

図2 2008年における職業別自殺者数

職業 自殺者数
(人)
構成比
自営業・家族従事者 3,206 9.9%
被雇用者・勤め人 8,997 27.9%
学生・生徒等 972 3.0%
無職者 18,279 56.7%
不詳 795 2.5%
総数 32,249 100%
出典:警察庁

図3 2008年における原因別の自殺者数
(合計以外は重複あり)

家庭問題 3,912
健康問題 15,153
経済・生活問題 7,404
勤務問題 2,412
男女問題 1,115
学校問題 387
その他 1,538
不詳 8,759
合計 32,249
出典:警察庁

 わが国で自殺問題が深刻化したのは、1998年からです。当時の通貨金融危機の中、失業率や倒産件数が跳ね上がるのと時を同じくして、自殺者数が急増しました。しかし、景気がその後回復し、失業率も2007年まで低下したにもかかわらず、自殺者数は減少しませんでした(図1)。わが国における自殺率は主要先進国の中では最悪の状態が続いています。

 警察庁の統計で2008年における職業別の自殺者を見ると(図2)、自殺者の半数以上が無職者でした(全体の56.7%)。また、原因別に見ると健康問題が大きく、半数近くに及びます。次いで経済・生活問題による自殺者数が、7000人以上存在します(原因は重複します)。

 このようなデータは、自殺の発生時点の状況を捉えたものです。しかし、自殺者の多くは複数の要因が重なり、かつ様々な経歴を経たうえで自殺に至っていることが多く、自殺発生時のデータだけでは、経済社会全体を覆う課題は捉え切れません。

 自殺の増加は、経済危機の発生とタイミングを同じくしており、データの特徴と整合性のある原因は、おそらく経済問題(特に失業や破産)であると考えられます。以下では、経済危機が自殺の増加に繋がり、しかも景気が回復したにもかかわらずその後高水準で持続した原因について、筆者の分析(注)を紹介したいと思います。

(注)桑原進(2008)「景気変動と自殺率に関する経済分析―企業行動からのアプローチ―」、GRIPS Discussion Paper 08-16。本稿での議論は、本来必要な様々な仮定を省略しています。詳細は本ディスカッションペーパーをご覧ください。政策研究大学院大学のウェブサイトから自由にダウンロードできます。

雇用維持規範の喪失による「放出」効果

 私は、自殺増に最も寄与した経済社会の変化は、雇用維持規範の喪失ではないかと考えています。一般に解雇に関する規制の解釈は経済情勢により変化します。

 不況時には、正規職員であっても企業の経営状態を理由とする解雇が容易になります。しかし、1997年の通貨金融危機以降は、景気循環に応じてというものでなく、長期雇用を維持する考え方そのものが急速に失われ、非正規雇用が急増することとなりました。また、職員の再就職支援に関する規範も失われました。すなわち、単なる景気循環による失業の増加ではなく、雇用維持に関する規範意識の変化、一種の「レジーム・スイッチ」が発生したと考えられます。

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著者プロフィール

桑原 進(くわはら・すすむ)

元政策研究大学院大学准教授(現内閣府経済社会総合研究所主任研究官)。産業カウンセラー。1989年東京大学経済学部卒業、同年経済企画庁入庁。99年在チェコ日本国大使館一等書記官。内閣府、連合総合生活開発研究所などを経て2007年に政策研究大学院大学。2010年8月より現職。著書に『経済指標を読む技術―統計データから日本経済の実態がわかる』(共著)、『データで斬る世界不況 エコノミストが挑む30問』(共著)、『政権交代の経済学』(共著)。

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