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変わるべきは中国とアメリカ。日本は今のままでいい

黒田東彦アジア開発銀行総裁と議論する中国そしてアジア(上)

  • 竹森 俊平

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2009年6月17日(水)

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 今回の対談を終えてから1つの歴史的な出来事を思い出した。かつて1930年代の大恐慌が最も深刻化した32年の出来事で、その年、アメリカのフーバー大統領が大増税を実施したのだ。前年の31年に比べ、GDP(国内総生産)が2割以上も落ちるという惨状で実施されたこの政策は悪名が高い。

 なぜ、経済について抜群の理解を持っていたフーバー大統領がそれを行ったのか。彼は合衆国の財政状況の悪化を嫌って、海外への資本逃避が起こることを怖れたのである。前年、オーストリアの巨大銀行(クレディート・アンシュタルト)の破綻に際し、その救済のためにオーストリア政府が通貨を増発させ、それが深刻な資本逃避を呼んで以来、先進国全体に資本逃避の波が押し寄せていた。それを配慮してのフーバー大統領の措置であったわけである。

「不況下での増税の波」を免れているアジア

 97年にアジア通貨危機が発生した時にも、危機に見舞われたアジアの6カ国は、国際通貨基金(IMF)とアメリカ政府が、財政収支の改善を救援融資のための条件としたために、深刻な経済不況にもかかわらず、増税等の措置を実施しなければならなかった。この危機をアジア経済の「構造要因」に原因のあるものと断定し、構造改革や財政・金融の引き締め措置をアジアの国に強要し、その結果、経済危機を深刻化させた当時のIMFの行動は、その後、スティグリッツやサックスなどの経済学者によって徹底的に批判された。

 これに対し、当時の日本政府の対応は異例なほど積極的で、しかも「構造改革」を前面に立てるIMFやアメリカ政府とは一線を画した賢明なものだった。すなわち、日本の大蔵省はこの危機を「構造問題」が原因で起こったものではなく、現地の金融機関が、海外からの短期の借り入れを長期の投資に転用していたことによるミスマッチが原因で起こった「流動性の危機」と正しく判断した。そして、アジア5カ国への迅速な救援融資を提案していたのである。

 日本の方針の独自性が最も顕著に表れているのは、三塚博蔵相(当時)の下での「アジア版IMF創設」の構想であった。筆者が人づてに聞いた話では、この構想はアジア危機以前から、大蔵省内で黒田東彦氏が温めてきたものだということである。結局、この構想はアメリカと中国が反対したために実現しなかったが、日本はその後もアジア新興国に対する流動性の支援を重視し、独自の路線を追求する。宮澤喜一蔵相(当時)の下での3兆円の中期資金援助(新宮沢構想)や、アジア域内の包括的なスワップ協定(チェンマイ・イニシアティブ)などがそれである。黒田氏はこうした構想のすべてにおいて、中心的な役割を果たされている。

 その黒田氏は現在、アジア開発銀行(ADB)総裁という重職に就いておられる。ADBの筆頭株主は日本政府であるから、これは日本アジア経済戦略とも重要なかかわりを持つ組織なのだが、経済危機の余波がアジア新興国にも及ぶ展開の中で、ADBの役割は急速に高まっている。

 97年の通貨危機の際に、IMFとの交渉で苦い目を見ているアジアの国は、たとえ新たな流動性危機を迎えてもIMFには救援を申し込まない。そのこともあって、ADBの存在がクローズアップされたのである。対談の始めに語られているADBの増資は、まさにそれを象徴する出来事である。かつての「アジア版IMF」の構想が黒田氏から出たものであることと考え合わせると、筆者はそこに意味深長なものを感じるのだが、それはともかく、ADBと日本政府の積極的な融資が、今回アジアにおける危機の沈静化に大きく貢献していることは間違いない。

 欧州連合(EU)では、GDPが20%も下落する深刻な経済危機に陥ったラトビアが、大幅な増税を決めなければならないような「不況下での増税の波」が発生しているが、アジアでは積極的な資金援助があるために、増税の必要性は前面に立っていない。むしろ、多くの国が積極的な景気刺激策を実施しているのである。これは、日本の経済外交の成功だと見ることができよう。それでは、わが国の最も独創的で、有能な官僚である黒田氏のお話を伺うことにしよう。

(写真:菅野勝男、以下同)

黒田 東彦(くろだ・はるひこ)

アジア開発銀行(ADB)総裁。1944年生まれ。1967年東京大学法学部卒業後、大蔵省入省。1971年オックスフォード大学経済学修士。1996年財政金融研究所長、1999年国際金融局長、1998年国際局長。1997年7月から3年半にわたって財務官を務める。2003年3月内閣官房参与、同年7月から一橋大学大学院経済学研究科教授を兼務。2005年2月から現職。著書に『元切り上げ』『通貨の興亡』『財政金融政策の成功と失敗―激動する日本経済』など。


竹森 アジア開発銀行(ADB)の増資計画が4月に総務会決議で承認されたようですが、どれくらいの金額にまで資本金を増やすのでしょうか。

黒田 現在の資本金が550億ドルですから、ちょうど3倍の1650億ドルにまで増やします。もっとも1100億ドルの増資額のうち4%だけが払い込まれ、96%は、コーラブルキャピタル(請求払資本金)にして、必要があれば請求するという一種の保証みたいなものですね。

 加盟国としては比較的少ない財政負担でかなり大きな規模の支援ができることになります。重要なポイントは、ADBの格付けが「AAA」なので、債券市場で安く借りられることです。安く借りた資金に事務費だけ乗せて貸すものですから、アジアの途上国のどこの国にとっても、自国で調達するよりも安いのです。

竹森 現在は総会で承認されたという段階ですね。次のステップはどうなりますか。

コメント7件コメント/レビュー

日本は輸出で稼がないと食っていけない。優れた技術を持つ中小企業は世界の需要を目標にするべきです。しかし、中小企業では世界の顧客を開拓する人材も資金もない。中小企業のリスクを減らしながら、世界に販路を求める事が可能なシステムを政策として作るべきと考えます。商社がかつて行っていた仕事ですが、もう一度商社に頑張って欲しい。(2009/06/18)

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日本は輸出で稼がないと食っていけない。優れた技術を持つ中小企業は世界の需要を目標にするべきです。しかし、中小企業では世界の顧客を開拓する人材も資金もない。中小企業のリスクを減らしながら、世界に販路を求める事が可能なシステムを政策として作るべきと考えます。商社がかつて行っていた仕事ですが、もう一度商社に頑張って欲しい。(2009/06/18)

>日本の場合は、その調整の必要性もないし、余地もあまりないということです。これも間違い。>前川リポートの構造改革をおろそかにしたがための景気後退これも間違い。輸出を「減らす」必要はない。問題は内需が全然足りないことである。構造改革をしていないから内需が低いのではなく、間違った構造改革により、公共投資を引き締め、内需拡大政策を放棄した。そのことにより内需が枯渇したために、輸出依存が強くなったのである。日本の余った金が、アメリカに投資され、アメリカのバブルを助長した。日本にも責任がある。日本が内需を刺激し、日本国内に製品をどんどん売れば、無理に輸出に依存する必要もなく、国内に投資すれば、アメリカに資金が集中してバブルを起こすこともなかった。日本はもっと公共投資をして、内需拡大策をとらなければならない、日本の需給ギャップは非常に巨大だから、常に内需拡大策をとらねばならない。(2009/06/17)

大変勉強になる対談で、「開発金融機関」というものに興味がわきました。ただ、「日本は今のままでいい」という論調については、あくまでも「マクロ経済の世界で、日本が国際的な競争優位を維持する上では」、という注釈が必要だと思います。(もともと、そういう文脈のお話ですが。)ミクロレベル・社会問題レベルの話では「素早い生産調整で適切な在庫調整」が何を意味するかは、言うまでもないことだと思います。この部分でのバランスを考えるならば、やはり日本の産業構造の調整は必要だと思います。(2009/06/17)

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