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静岡藩庁と士民の出資による合本会社

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2009年6月12日(金)

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 宿屋に戻った栄一は妻千代に思いつくまま手紙を書いた。

「一筆しめし候 先日は久々にお目もじいたし山々の話尽きがたく無事の再会は皇天の恵みと有り難く幸せ候 正月には血洗島に帰れぬとも来春には歌子と共に暮らすと思えば楽しみかな」

 そこまで書いて栄一は筆をおいた。静岡藩に約束した興業殖産の提案書を先に片づけなければならないと気になったからであった。血洗島村に帰る日を諦めて二日ほどかけて「商法御会所規則書」という表題で藩の利殖方法とその計算書を含めた提案書を作成した。

栄一筆 会所設立見込書 写真提供:渋沢史料館
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「商法会所は藩庁と藩内士民のそれぞれの出資金による官民合同の組織とする。出資は営業資本と預金の二つに分け、前者に対しては利益配当を行い、後者に対しては利子を支払う。支払は共に年末一回とする。会所の業務は茶、養蚕、その他の商品販売と藩内農業の奨励を旨とする。また京阪その他地区から米穀肥料等を買い付けて藩内の村々へ貸与する。貸付金利はその種類により年一割五分、一割二分、又は日歩三厘の利子を徴する」

 糸綴じした提案書を勘定頭の平岡に差し出してから、これで上州に帰れると宿で準備を始めたところまた勘定所から呼び出しを受けた。

「渋沢、そなたの提案通り藩庁では商法会所を設立することに衆議一決した。ついてはそなたを会所頭取として任命する。紺屋町にある代官所が空いているので、そこを事務所として早速業務を執るがよい」

 平岡は栄一が逡巡するのを遮るかのように一気にまくしたてた。まさかと思ったが急転直下商法会所頭取に就任する運命となった。

「なお時服二并(へい)と支度金五百両を支給する。会所の総理は大久保一翁さまで、勘定頭のそれがしは貴方を監査することになる。しかし運転方の全権は渋沢栄一に委すというお達しである」

 すべて水の流れるように段取りされていた。

「また商法会所の資金は元金として藩庁から一万六千両が支出される。それに政府からの借用金の内から二十五万九千両の金札と士民の出資金一万九千両を加えることとし、合計すると総資本金は二十九万四千両となる」
「えっ、それほどの金額を私に運転せよとのことですか」
「何をいうか、そもそもこれはそなたの提案ではないか」
「そこまで小生を重用して頂けるなら個人的にフランスで倹約して貯蓄した私の金も元金に含めてください」

フランス滞在中の公印、及び商法会所印他 写真提供:渋沢史料館
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 ここに至っては提案者として引き下がる訳にはいかず栄一は覚悟を決めて五千両の全財産を供出した。  

 栄一はすぐさま行動に移した。先ず宿屋を引き払って代官所の一本横道にある呉服町の傘商店川村の二階を借りた。それから出資者になると思われる駿遠二国内の豪商、豪農三十人ばかりを選んで御用達商人として指名した。大久保総理からは藩士十二名が会所掛として任命されてきた。


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三品 和広 神戸大学教授