• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

銀行業を己の天職とする

  • 茶屋 二郎

バックナンバー

2009年7月1日(水)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

前回から読む。最初からはこちら


七 第一国立銀行

 薩長藩を中心として生まれた新政府の高官の多くは軍人であり経済よりも常に軍事に関心を抱いた。政費増額問題は台湾征討を機に次から次へと起きてきた。井上馨大輔と渋沢栄一少輔は各参議と毎日口論をし続けていた。特に佐賀出身の司法卿江藤新平との間は紛議というより氷炭相容れぬ喧嘩の口上に近かった。

江藤新平 「国立国会図書館 近代日本人の肖像」より転載
画像のクリックで拡大表示

「井上、大蔵省は太政官正院会議にて議決された政費をなぜ承認せぬのだ」
「いかに命令でも財源が無いから支出するわけにはいかんちゃ」
「全国に区裁判所を作る大事な役割があるのだ」
「無い袖は振れぬと同様に財源の無い今日、到底支出はできぬ」

 頑強に抵抗した井上はその日から自宅に戻ってしまい役所に登省しなくなった。代わりに栄一が仕方なく矢面に立つことになった。

「長官が留守でありますから、私の一存で支出することはあいなりませぬ」

と言ってこれまた強硬に頑張った。

「井上と渋沢は怪しからん人物だ。ただ各省の政費増加を拒絶するばかりで、しかも大蔵省を彼等が専横しているのは実に不埒至極である。このままにして打ち捨て置けばどこまで跋扈(ばっこ)するか知れぬ」

 江藤はあたり構わず周囲に不平を洩らした。

 明治六年五月三日井上大輔は政府に出頭して「各省の政費増加を拒絶する」という大蔵省の具申書を提案して大いに論弁したが、逆に却下されてしまった。

 窮地に追い詰められた井上は栄一を始めとする主立った大蔵省幹部を招集した。

「本日大隈総裁を始めとする各参議は大蔵省の言を聞き入れてくれなかった。このような正当な道理が行われぬというのは、この井上を政府が信任せぬ結果である。もはや箸を投げるよりせんない。したがって本日ここに私は本職を辞する。これより速やかにここを退出するが諸君は承諾してくれるように、跡始末は宜しくお願い申す」

 井上の覚悟の言葉は冷静沈着であった。その後すぐに栄一が口を開いた。

「私も辞表を提出します。すでに一昨年以来辞職をお願いしていることはよく御承知のはずです。今日まで留任したのは一重に井上長官の財政改革の主義に同調したからであります。今日に及んでそれが拒否された以上、私も大蔵省に留まる理由はありません」

「君がおいと一緒に辞しては大蔵省が闇になる」
「お言葉ながら闇になるのが心配なら井上さんが思い止まればよい。私は以前から辞職する積もりでした」

「私も辞職します」

 益田孝であった。三人とも持論を貫いて辞表を提出するなり袖をつらねて大蔵省を後にした。

コメント0

「小説 渋沢栄一「青淵の竜」」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

コメント入力

コメント(0件)

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

意外なことに、伝統的な観光地が 訪日客の誘致に失敗するケースも 少なからず存在する。

高坂 晶子 日本総合研究所調査部主任研究員