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竜のような男になってください

  • 茶屋 二郎

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2009年7月2日(木)

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 栄一は第一国立銀行の総監役になったのを契機に住居を神田神保町から銀行に歩いて通える日本橋海運橋の袂にある家に引っ越すことにした。購入した敷地の両角を流れている神田川の川面からは銀行の西洋煉瓦壁五階建の洋館が間近に見えた。

 三井組ハウスは、総工費六万円をかけて高さ十二丈、間口十五間、奥行き二十八間の三井本店として最新豪華建築物に仕上げたばかりであった。それを、井上馨が第一国立銀行の本店にすると決めて一年たらずの間に強引に買い取ったのであった。無理強いさせられた三井組の三野村利左衛門は売り渋りながらも十二万八千円で井上に買い取らせ元を取った経緯があった。

第一国立銀行 (写真提供:渋沢史料館
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 栄一は後顧の憂いなく銀行業に専念するため、この機会に一人で血洗島村にいた母の栄を引き取って老後の面倒を見ることにした。同時に上野谷中の寺に新しく渋沢家の墓を造り、夭折した長男の市太郎と三女糸子、それに養子渋沢平九郎が戦死した武州の黒山村から遺骨を移して改めて共に弔った。現地には「大道即了居士」という戒名の石碑を建てて慰霊碑とした。

 栄一の手許には振武軍と戦った官軍の隊長から贈られた平九郎の愛刀があった。その月山源貞一の刀身を見ると胸中にいつも湧き起こるこの切ない侘びしさの悔恨は一生消えることなく胸に残るに違いないと自問自答するのであった。

 隅田川の川開きには両国橋近くに上がる花火が新居からもよく見えた。家族全員が「玉屋―鍵屋―」と歓声を上げている頃、栄一は一通の招集状を開いていた。差出人は昨年静岡県参事から東京府知事に栄転した大久保一翁で面会を希望する内容であった。

 翌日東京府の知事室を訪れた栄一を大久保は破顔で迎えた。

「久し振りだな。大蔵省を辞めて第一国立銀行に勤めているそうだな」
「大久保様にもお変わりはなく恐悦至極です」

「渋沢、固い挨拶はいらぬ。今日はお主にまた頼みたいことがあって呼んだのだ」
「もう官吏はしませぬが」

 大久保は栄一の静岡時代を思い出したのか少し気まずい顔で、

「そなた旧幕府時代の江戸町会所を知っておるか」
「あまり知りませぬ」

「寛政年間幕府の老中松平定信が江戸市中の冗費を節約して、この剰余金の一分を町内に積み、二分を地主に還付し、残る七分を町会所に蓄積して恐慌や救済に備えていた。この百年間でじつに百七十万両の積金になってまだ残っている。わしが府知事になってから、その町会所を東京営繕会議所と名付けた」

「そうでしたか」

「東京営繕会議所はその他に道路の補修、商法の講習所、更に墓地の始末から養育院の世話までしなければならぬ。東京府だけではとてもこの仕事はできぬので、渋沢君にこの会議所の共有金取締りを頼みたいのだ」

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