「立田博司のニッポンの本流と奔流」

米国「新金融規制案」のインパクト

「新しい資本主義」に舵を切るオバマ大統領

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2010年1月26日(火)

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 2008年のリーマンショック以降、緊急の危機体制を敷いて足並みを揃えてきた世界各国の政策当局も、前年に比べてプラスの指標が出始めたことで、足並みの乱れが見受けられるようになり、また政策対応も分かれてきました。

 最も元気な中国では、バブルの発生によるインフレや格差拡大を懸念して、1月12日の預金準備率引き上げに続き、銀行融資の伸びの抑制にも動き始めるなど、出口戦略に傾いてきているようです。逆に欧州では、EU(欧州連合)とユーロ維持のために財政健全化を求める声が日増しに強まっており、それにつれて懸念した通りユーロが急速に売られています。

 そんな中で、私は世界景気がピークアウトし始めていると見ています。市場の期待が高い割には、全般的な経済指標や企業業績は前年比では最も見栄えがいい時期を終えようとしています(現実を直視するには、比較ではなく実数の推移を長期で見るのがお勧めです。最悪期に比べてどれくらい伸びたかはあまり意味がありませんから)。

金融危機の原因は未解決のまま

 以前から指摘してきた在庫サイクルは、全体として過少在庫からかなり適正、あるいは業種によっては積み増しが始まっており、いいところまで来ました。しかも景気回復過程での収益回復の原動力は、コスト削減それも人員リストラが主なものだったので、企業は儲かるけれども従業員はそのしわ寄せを大きく受けている、というのが実情で、またもや所得格差は広がってきています。

 一方で、米国の住宅の差し押さえは多い状態なので、消費者信用残高(貸し付け残高)は毎月減り続け、消費バブルにまみれた家計のバランスシート・リストラはまだまだ道半ばのようです。また先週発表の米国大手金融機関決算で明らかになったのは、商業銀行部門の不良債権額は変わらず増加を続ける一方、これまでトレーディング中心に儲けてきた投資銀行部門の収益もピークを打ち始めた、と見てとれます。

 こうして見ると重要なポイントは、景気も収益も確かに一時的に回復したようには見えるけれども、実は金融危機を引き起こした原因はまだ解決されていない、それどころか見方によっては水面下ではさらに悪化している、ということです。

 ここにこそ、米マサチューセッツ州上院補欠選挙で民主党が敗北してしまった遠因があります。バラク・オバマ米大統領は、就任以来高い支持率を得たことでバランスを意識した政策を取ってきましたが、アフガン問題、医療制度改革、金融規制改革のいずれもバランスを取り過ぎて虻蜂取らずになってしまい、保守・リベラル、あるいは高所得者層・中低所得者層のいずれからも支持を失ってきたのではないでしょうか。

 このところの政策の方向性の変化は、バランス優先からよりオバマ大統領本来の主張をクリアにする、すなわち世の中を是正することにより高所得者層よりも中低所得者層を優遇し格差是正を図るという方向に舵を切ったことの証でしょう。この流れで考えると、先週発表されて世界の金融市場を驚かせた新金融規制案のタイミングと意義についても、納得できるのではないでしょうか?

 前回まで、21世紀の価値観や環境変化を受けて、また経済学者のフリードリヒ・ハイエクやヨーゼフ・アーロイス・シュンペーターの考え方を俯瞰しながら、本来の資本主義のあり方について考察を進めてきました。その中で、20世紀までの近代工業社会における「カネ」中心の資本主義に対して、21世紀には「カネ」だけではない「ヒト」の価値も含めた「本物の価値」「目に見えない価値」を付加した「新しい資本主義」が求められているのではないか、と考えました。

 そこで今回は、米国がどのような形で「新しい資本主義」に向かっていくのか、そして金融危機を受けて米国経済はこれからどうなっていくのかについて、まずそれぞれの全体感を持ったうえで具体的に考えていきます。その過程で、今話題になっている米国の新金融規制案についても詳しく見ていきたいと思います。

両極にあった日米の資本主義

 ここまでで考えてきた本来の資本主義のあり方を「新しい資本主義」とすると、米国の資本主義と日本の資本主義は、実は対極にあるのではないかと捉えています。前回までの考察の軸は(非常に単純化して考えると)、価値観として「カネ」と「ヒト」のいずれに比重が置かれるのか、であるということができます。

 近代工業社会の米国では、市場を重視して資本の効率を高めること、すなわち投下した資本に対するリターンという「カネ」を価値観の中心に置いてきました。「ヒト」の動機づけも「カネ」が中心で、リターンという「カネ」のためならコストとして捉えた「ヒト」を削減、すなわち解雇しても仕方がない、また会社や事業も「カネ」のための道具と捉えて簡単に売買する、という具合です。

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著者プロフィール

立田 博司(たてだ・ひろし)

日系・外資系の大手運用会社で20年以上に渡りファンドマネジャーとして資産運用に携わる。2001年、米経済誌「フォーブス」における「20 of the world's Best Fund Managers」の1人に選ばれ、2007年にはトムソン・ロイター参加の米投信情報サービス会社リッパーより、日本中小型株部門における10年間のBest Fundを受賞するなど、国内外の債券・為替・株式運用に長年携わった経験が国際的に高く評価されている。日本証券アナリスト協会検定会員。



このコラムについて

立田博司のニッポンの本流と奔流

世の中で起きている出来事に対して、歴史的な位置づけや世界的な意義をつなげていくことで、将来を見通すファンドマネジャー。この分析力を駆使して、「未曾有の不況」の後に生まれてくるであろう「新しいニッポン」の概念を探っていく。

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