ほんの少し前、私たちは保険会社の不払い問題を目の当たりにしました。それにもかかわらず、医療費の不安を医療保険の加入でカバーするという行動パターンに大きな変化はないようです。最近は「先進医療特約」を前面に押し出して医療保険のニーズ喚起を行う商品が現れました。宣伝の効果なのか、「先進医療特約」を付けるために保険の見直しを考える方がずいぶん増えているように感じます。
私はこれまで生活設計のお手伝いをするFPの立場から、医療費の不安をあおられて保険加入に誘導され、大切なお金を医療保険につぎ込むことにより使えるお金が減り、そのことが惹起する危険に警鐘を鳴らしてきました。しかし、それはまだお金の問題にとどまっていました。
最近の保険商品の売り方を見ていると、「がんは早期発見・早期治療することにより治る病気になりました」とか、「医学の進歩により、身体への悪影響を抑えた高度な治療ができる時代になりました」「高度な治療には高額の費用がかかります」といった論法で、「先進医療」を付加した保険に加入していれば安心というイメージを振りまいています。もはやお金の問題にとどまらず、「命」の問題にまで踏み込んでいることを危惧します。このような動きも踏まえて、『医療保険は入ってはいけない![新版] 』を上梓いたしましたので、ご興味のある方は是非ご一読ください。
「早期発見・早期治療」神話の影響
医療保険に過剰な期待を持つことの危険性は、繰り返しこのコラムでも取り上げましたし、「先進医療」について多くの方が陥りがちな勘違いにも触れてきました。今回は保険会社が振りまく「早期発見・早期治療」神話の影響について考えてみたいと思います。
がん対策基本法が制定され、各自治体ではがん検診率の向上を目指し、多大な費用をかけて集団検診を行っています。当然ながら、検診率が向上すれば早期発見ができ、死亡率が下がる、つまり寿命が延びることを想定してのことでしょう。ところが、検診率が向上すれば寿命が延びるという科学的根拠は乏しいのが現状です。
日本の「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン」において、検診の有効性が謳われていますが、その根拠となっているおもな疫学調査は、「がんで死亡した人と死亡していない人と比べると、死亡した人が前年に検診を受けた割合が低い」という結果から、検診により死亡率が減少したと結論付けたものです。
このような方法を「後ろ向き症例対照研究」と言いますが、検診の有効性を評価するには、年齢や喫煙歴等の背景要因を揃えた上で、検診を受けるグループと受けないグループを分けて、その後長期にわたって追跡する前向き調査を行う必要があると言われています。
ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。










