「立田博司のニッポンの本流と奔流」

「キリン・サントリー破談」にがっかりしたワケ

日本の新たな企業統治は行き先が見えないまま

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2010年2月16日(火)

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 冬期オリンピックの開会式が華やかに行われる中で、世界の関心はギリシャ問題に対するEU(欧州連合)の支援の具体的な内容に注がれています。EUにとっては、ユーロの信任に関わることなのでギリシャ問題は何としても解決しなければならないことは明らかです。

 ただ一方で、次も控えているだろうし自国も大変な状況である、あまりEUとして支援をし過ぎると逆にEU・ユーロの信任が崩壊してしまうという「行くも退くも地獄」という難しいジレンマに悩まされています。対岸の火事と見ている米国や日本も、財政赤字問題がいつ飛び火して長期金利の上昇を招くかもしれないので、ギリシャ問題はその進展に世界中の注目を集め続けそうです。

 日本では、キリンホールディングス(以下キリン)とサントリーホールディングス(以下サントリー)の統合見送りに続いて、新生銀行とあおぞら銀行の合併断念のニュースも出てきました。まさに「喉元過ぎれば熱さ忘れる」という状況で、日本経済の危機感が薄れてきたことが懸念されます。ただ、キリンとサントリーの統合見送りについては、内需大企業の強者連合で世界に伍していく企業が生まれなかったという以上に、資本市場や企業のあり方を考えるうえでは深い問題をはらんでいます。

 今回は、これまで見てきた21世紀の付加価値の変化や日米の資本主義のあり方を踏まえて、キリン・サントリー統合見送りも含めて、21世紀の資本市場や企業のあり方について考察を深めていきたいと思います。

「けしからん」株主に経営監視させる矛盾

 先週、日本経済新聞に掲載されたニュースに驚きました。金融庁が、上場企業などを対象とする情報開示規制の強化策を発表したということです。

 もちろん背景には、民主党政権の意向や企業に対する風当たりの世界的な強まりがあるのかもしれませんが、それにしてもなぜこの時期に開示を強化しなければならないのか、いかにも唐突な感は否めません。規制強化策の中では、1億円以上の役員報酬の個別開示義務づけがありますが、そもそも日本で1億円以上の報酬をもらっている経営者がどれほどいるのか、高額報酬と何らかの不祥事の因果関係が明らかなのか、特に日本においては大変疑問です。

 成功者を讃え失敗者に再起のチャンスを与える風土がある米国ならその行き過ぎを抑制するメリットも考えられますが、そもそも高額報酬が少ない日本のような“妬み社会”では、個別報酬を開示するメリットよりもそれにより経営者が萎縮するデメリットの方が大きいように思います(だからと言って、高額報酬自体が良いとは思っていませんが)。

 また企業統治(コーポレートガバナンス)体制についても、社外取締役や監査役の設置状況を明示するとありますが、そもそも社外取締役制度や監査役制度がどれほど効果を上げているのか、根本的な問題を議論することなく形だけを整えたところで、実質的な企業統治は達成されないでしょう。さらに「金融庁は一連の規制強化を通じて、企業内に閉じ込められていた情報を透明化し、株主や投資家による経営監視を強めたい考え」と解説されています。

 この文脈が正しいとすると、あたかも株主・投資家は企業の統治者として正しい判断ができるという前提を置いていると思われますが、社外取締役や監査役と同様に、私が知る限りでは経営者以上に経営を熟知し正しい方向に導ける株主や投資家はごく少数だと思います。民主党政権が、「株主資本主義はけしからん」と言いながら、一方でその株主に経営監視をさせるというのは、矛盾してはいませんか?

 以上から考えると、今回の金融庁の情報開示規制の強化策は、以前述べたように大陸法型の行政主導が現れた悪い規制強化ではないかと考えています。個人的には後述のように、現在の日本の企業統治制度に手直しは必要だとしても大きな問題を感じていませんし、それよりも先に考えなければならない問題がある。しかも仮に問題があるとしても、少数の不祥事をもって全体を規制強化するよりも、企業経営の自由度をできるだけ認めたうえで不祥事に対して厳しく当たる英米法的な事後処罰的な発想を持たなければ、「角を矯めて牛を殺す」ことにもなりかねないと思います。

 民主党が政権公約に掲げる「公開会社法」の審議が始まるようですが、ぜひ本来の株式会社や資本市場のあり方や実態という本質的な議論を踏まえたうえで、日本における理想の姿を実現できるように期待したいものです。

株主が企業から搾取する存在に

 そこで今回は、株式会社や資本市場のあり方を考えるに当たり、まずは資本市場に起こってきた変化について考えてみましょう。以前に述べたように、私は20世紀の先進国においてはモノのための「産業資本」の必要性が徐々に低下し、株式市場は本来の資本の供給という役割から、投資家という名の投機家がお金儲けのゲームをする舞台へと、歴史的な役割を変えてきたと考えています。

 近頃見られる数少ない資金調達は、経営の失敗を補填するための調達ばかりが目立ち成長資金の調達はあまり見受けられないですし、高株価の自社株を使って行なわれたゲーム的なM&A(合併・買収)は、長期的には成功したとは言えないものが多いことが明らかになってきています。米国株式市場においては、市場から企業が調達する金額よりも、自社株買いや高配当によって資金を株式市場に戻している金額の方が多くなってきているようです。

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著者プロフィール

立田 博司(たてだ・ひろし)

日系・外資系の大手運用会社で20年以上に渡りファンドマネジャーとして資産運用に携わる。2001年、米経済誌「フォーブス」における「20 of the world's Best Fund Managers」の1人に選ばれ、2007年にはトムソン・ロイター参加の米投信情報サービス会社リッパーより、日本中小型株部門における10年間のBest Fundを受賞するなど、国内外の債券・為替・株式運用に長年携わった経験が国際的に高く評価されている。日本証券アナリスト協会検定会員。



このコラムについて

立田博司のニッポンの本流と奔流

世の中で起きている出来事に対して、歴史的な位置づけや世界的な意義をつなげていくことで、将来を見通すファンドマネジャー。この分析力を駆使して、「未曾有の不況」の後に生まれてくるであろう「新しいニッポン」の概念を探っていく。

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