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利益追求と公的な仲介が両立しない金融業のジレンマ

老後の資産形成に民間の金融業界は貢献できるか

  • 立田 博司

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2010年3月16日(火)

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 公的年金である厚生年金と国民年金の給付に備えるための積立金約120兆円を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(以下、GPIF)の運用方法について、政府・民主党内の対立が明らかになってきました。民主党内の内輪もめではありますが、実は、資産運用のあり方から公的年金制度、そして個人の資産形成のあり方にまで至る、国民の安心に関わる大切な話なのです。

 今回は年金制度や、これまでの日本の金融、そして金融のあるべき姿について考えていきたいと思います。金融を取り上げるのは、21世紀前半の日本において「金融サービス産業」は、前回まで述べてきた「ネット化」や医療産業と並んで、新しい成長産業になる可能性が高いと考えているからでもあります。

年金制度に迫られる厳しい選択

 日本国民全員を対象とする「国民皆年金」が始まったのは、前回の「国民皆保険」と同時期の1961年に遡ります。当時は高度成長経済とまだまだ短かった平均寿命を前提に制度設計されたわけですが、その後は、1975年に合成特殊出生率が初めて2.0を割り込み、1980年代には平均寿命がさらに伸びて少子高齢化が進む中で、財政の負担が重くなってきたために、1980年代後半からは年金額の上昇を抑え始め、1994年には厚生年金の受給年齢を60歳から65歳に引き上げるなど、段階的に小手先・問題先送りの対症療法で凌いできました。

 さらに不良債権処理に目処が立ち世界景気拡大の恩恵が鮮明になった2004年には、自民党政権が「100年安心」と銘打って年金制度改革を実施しましたが、その当時の甘かった経済見通しや納付率の前提などが崩れ、世界金融危機を経て財政赤字が劇的に拡大している今となっては、これも小手先の辻褄合わせだったことが明らかになっています。

 長妻昭厚生労働相がGPIFの運用に関して運用利回りを提示しようとしないのは、厚労省が年金制度で約束した「現役世代の所得の50%」という給付水準を守るために、財政見通し前提の賃金上昇率を給付水準から逆算して、2.5%というあり得ない数値に設定したうえで、運用の利回り目標を「賃金上昇率+1.6%」すなわち4.1%(こんな利回りが得られるのなら皆さん投資したいですよね?)という高い利回りにしようとしたことに反発したからだと言われています。

 これまでの年金制度に関する小手先の議論では、ほとんどが前提を変えることによる抜本改革の先送りだったことを考えると、長妻厚労相の「現実的な本来の姿」を求めようとするスタンスは正しいと考えています。日本の年金制度の本質的な問題点は、前提をいくらに置くかという些末な議論ではなく、高度成長経済と一定の平均寿命、そして伸び続ける労働力人口を前提に組み立てられた年金制度が、成熟経済化と伸び続ける平均寿命、減り始めた労働力人口と少子高齢化という大きな環境変化にも関わらず制度の抜本的な変更を先送りしてきたために、抱え続けようとして無理をしてきた国や企業がもう限界に来ている、ということなのです。

 来年度からはIFRS(国際会計基準)という変更も視野に入り、企業はいよいよ確定給付型年金に対するスタンスを明確にすることを迫られてきますし、国も財政赤字からこれ以上の負担は難しくなるので、変化した前提をベースにして国・企業がどこまで年金負担ができるか、裏を返せば現実的には国民の負担増や給付削減という厳しい選択を迫られているのです。

 GPIFが話題になっているもう1つの理由は、運用のあり方そのものです。公的年金の運用は、厚労相が3~5年ごとに策定する中期計画で示す目標に沿って、GPIFが運用の資産配分を決めて運用する仕組みになっていますが、厚労省の目標の前提のあり方とともに、どのくらいのリスクを取って運用するのか、が議論になっています。GPIFを管轄する原口一博総務相は、公的年金の資産は成長分野にも振り向けるべきだとして、積立金を分割したうえで成長が続く新興国株式なども含め高い利回りを狙うように求めています。

 政権交代前の2008年にも、中東・中国などが政府系ファンド(以下、SWF)を立ち上げ公的資金を使って外国株投資を活発化したことから、日本でもSWFの必要性を指摘する声が自民党内で浮上したのですが、これも原口総務相の考えと背景は似ています。ただこうした考え方は、以前問題になった財政投融資の仕組みと似て、国民から預かっているお金を政府が都合が良さそうなところに流用して、もし減ってしまったらまた税金でまかなえば良いという安易な考え方だと思います。新興国株式への投資についてどこまで調査を尽くして国家戦略として議論されたかを見ていると、明らかに時流に迎合しただけの意見が多いようですし、実際にかなり政治・外交戦略に絡んだ動きをしたSWFのいくつかは世界金融危機で大きな損をしてしまったようです。

 これまで20年以上資産運用に携わってきた立場からすると、高い利回りを得るにはそれなりの危険を冒さなければならないことは常識であり、国として新興国に投資すれば儲かるというような安易な話はないのではないかと感じてしまいます。そもそも公的年金の積立金は、老後のために国民から預かった国民の勤労の結晶ともいうべき大切な資産であり、国や企業が拠出しているお金も元は国民の税金・財産から払われているという認識を持つ必要があります。

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