「新局面を迎えた日本経済」

なぜ消費税でなければならないのか

増税をめぐる認識ギャップについて考える

バックナンバー

2010年6月7日(月)

1/4ページ

印刷ページ

政権交代の経済学
価格:2310円

 本コラムの著者である小峰隆夫法政大学大学院教授が執筆、編集した本が出版されました。小峰教授を中心としたエコノミスト集団が、経済学のベーシックな理論を使って政権交代は何をもたらすのかを分析したものです。

 菅直人新首相のもとで再出発した民主党。独自の経済政策は、経済学の視点から見るとどう評価できるのでしょうか?

 財政再建、成長戦略、社会保障制度など新首相には多くの課題の解決が求められています。税金のあり方についての議論も日本の将来を考えると避けては通れません。民主党の経済政策からますます目が離せなくなるこの夏、政治経済の“目利き”になるためにもぜひ本書をお読みください。

 消費税ほど一般の人々の考えと専門経済学者、エコノミストたちの考えにギャップがある問題はないように思われます。日本経済を観察している経済学者、エコノミストの多くは、消費税の増税が必要だと考えているのですが、一般の人々は必ずしもそうではないようです。

 こうした認識ギャップは、選挙によって増幅される傾向があります。これまで、消費税(またはかつての「売り上げ税」)を前面に押し出して選挙戦に臨んだ政党はことごとく選挙に敗れています。したがって、選挙を意識すると、いずれの政党も「消費税より歳出の無駄の排除が先」「消費税は必要かもしれないが、まだ先の話」という態度を取ることになります。かくして消費税の引き上げはますます遠のいていくのです。

 もちろん、経済学者、エコノミストの中にも消費税増税は必要ないと考えている人はいるでしょうし、最近では一般の人々もかなり消費税引き上げ容認派が増えてきているようです。「今度こそ流れが変わったか」と思っている人も多いかと思いますが、私は「そうでもないのでは」と思っています。民主党も自民党も内心では「消費税増税やむなし」と考えているようなのですが、まだ腰が引けていますし、最近人気急上昇中のみんなの党は、政府の資産を処分すればまだ相当の財源(いわゆる「埋蔵金」)があるから、増税は必要ないという立場だからです。

 消費税をめぐる議論では、立場によってなぜこれほどの認識ギャップが大きいのでしょうか。私は、この認識ギャップは2段階で生じていると考えています。

財政再建に対する危機感と税の「逆進性」

 第1段階は、そもそも財政再建や増税が必要なのかという点についての認識ギャップです。「財政赤字を減らすべきだ」という点については、一般の人々も専門家もそれほど大きな認識ギャップはないようですが、一般の人々の危機感はまだ足りないように思われます。そもそも国民全体が財政再建の必要性を強く意識しているのであれば、財政再建を主張する政党が人気を博すことになるはずなのですが、現実にはむしろ歳出拡大型の政党が支持を集めてきたように思われます。

 また、たとえ財政再建の必要性を認めたとしても、「増税よりまずは歳出の無駄をなくすべきだ」として増税そのものに反対する声が多く聞かれます。これに対して、専門家エコノミストたちは、歳出削減には限界があり、増税は不可避と考える人が多いようです。

 第2段階は、歳入の増加を図る手段として、消費税が適当なのかという点についての認識ギャップです。一般の人々は、消費税は生活必需品にもかかるから、低所得者の負担が相対的に大きくなり(いわゆる「逆進的」)、適切な手段だとは言えない」と考えているようです。これに対して、専門家エコノミストたちは、ある程度そうした問題はあるものの、消費税が最も現実的な選択肢だと考えています。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。



関連記事

Keyword(クリックするとそのキーワードで記事検索をします)

Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
内容は…
この記事は…
コメント118 件(コメントを読む)
トラックバック
著者プロフィール

小峰 隆夫(こみね・たかお)

小峰 隆夫

法政大学大学院政策創造研究科教授。1947年生まれ。69年東京大学経済学部卒業、同年経済企画庁入庁。2003年から同大学に移り、08年4月から現職。著書に『日本経済の構造変動』、『超長期予測 老いるアジア』『女性が変える日本経済』、『最新日本経済入門(第3版)』、『データで斬る世界不況 エコノミストが挑む30問』、『政権交代の経済学』、『人口負荷社会』ほか多数。



このコラムについて

新局面を迎えた日本経済

先進国中最悪の水準にある公債残高、急速に進む少子高齢化、高止まる若年失業率…。高度成長、失われた10年、そして世界金融危機を経て、現在の日本経済が抱える課題は新たな様相を見せています。今後、増税、外国人労働者の受け入れ、社会保障の一層の拡充など、議論すべき論点は多数あります。このコラムでは、日本が直面する課題と今後の課題について問題点を整理し、経済学的な視点から分かりやすく解説していきます。これまでの延長線上にはこれからの日本の姿は見えてきません。日本の新たな問題を直視し、未来を担う若い世代が明るい希望を描ける、あるべき日本の姿について考えてみましょう。

⇒ 記事一覧

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事

  • いま、歩き出す未来への道 復興ニッポン

日経ビジネスからのご案内