「新しい経済の教科書」

「世代論」で語る消費分析のワナ

宇南山卓・神戸大学准教授に消費データの正しい見方を聞く

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2010年6月24日(木)

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 若者は自動車を買わない、そもそも消費そのものに魅力を感じなくなってしまった…。モノが売れないと言われる中で、消費にまつわる通説はさまざまだ。
 では本当に「今どきの若者」は、「消費をしなくなった」のか? 自動車を買わないことが、「消費に消極的」な証左なのか? “表面的な”統計数字の結果を信じ込んでしまうと、消費の実態を見誤ることがありそうだ。
 家計消費の分析を専門とする宇南山卓・神戸大学経済学研究科准教授に、印象論で語られる消費と、表面的な数字で導き出される「消費の世代論」のワナについて解説してもらおう。

(聞き手は日経ビジネス記者、広野彩子)

宇南山 卓(うなやま・たかし)氏
神戸大学大学院経済学研究科准教授。1997年東京大学経済学部卒、99年同大学大学院修士課程修了、2004年同大学博士(経済学)。慶應義塾大学、京都大学講師を経て現職。専門は、日本経済論。現在、日本経済研究センター特別研究員・経済産業研究所ファカルティーフェローとして、少子化と女性労働について研究している。日本経済研究センターでは「若手研究者による政策提言プロジェクト」に参加、経済産業研究所では吉川洋東京大学教授の研究プロジェクト「少子高齢化と日本経済」のサブリーダー。
(撮影:福島正造、以下同)

宇南山 卓氏の写真

―― 現代の若者はお金を使わない、消費に魅力を感じていないと最近、よく言われます。確かに自動車は以前のように若者の憧れではなくなりましたし、服装もファストファッション化しています。

宇南山 若者の消費に関するデータを見る場合には、実は色々と気をつけなければならない点があります。例えば、総務省統計局が公表している「家計調査」を使って若者の消費を調べようとすれば、年齢階級別のデータを使います。年齢階級は、世帯主の年齢で見ます。そのため25歳の若者の消費を見ようとすれば、25歳が世帯主となっている世帯の消費を見るのです。昔は25歳なら、多くの人が結婚していましたから、25歳が世帯主の世帯の消費を見れば、その年齢階級の若者がどんなものを買っているかが分かりました。

 ところが今は、25歳ですと独身で、親元に住んでいたり一人暮らしをしている人が多いでしょう。親は恐らく50歳ぐらいです。親と同居していれば、25歳の消費でも、50歳の消費としてカウントされてしまうのです。経済学者は、世帯全体の消費から若者の消費だけを抜き出そうと頑張るのですが、若者の消費の現状はこうだと断定するのは、かなり難しいのが実情です。

 さらに、家計調査では基本的に「2人以上の世帯」の数値が注目されます。単身世帯も調査していますが、一人暮らしの若者は調査が困難であり、若者のサンプルの質は十分とはいえません。その意味で、結婚をしてないと、そもそも統計から漏れている可能性が高いのです。

昔の25歳は世帯主だった

 また、消費の実態についても、昔は20代後半〜30代前半なら、大体子供がいました。若い人とはそういう人たちが中心だったのです。現在の結婚をしていない25歳と、昔の結婚をしていた25歳では、消費の仕方が違います。さらに、独身者だけを比較するとしても、高学歴の人ほど結婚が遅くなっている傾向がありますから、昔の独身者と今の独身者では学歴構成は大きく違います。つまり、昔と今の若者の消費行動の違いを、単純に平均によってとらえるのは適切ではありません。

―― 社会の変化を多面的に念頭に置かなければ、たとえデータを基にしたとしてもおかしな分析になってしまうのですね。

宇南山 そもそも「若者は消費をしない」と言う時、それが具体的に何を意味しているのかが重要です。平均としては(バブル期ごろに比べて)自動車を買わないとか、お酒を飲まないという点は確かにあります。しかし、もう1つのキーワードとして「一点豪華主義」に注目すると、より大きな社会の変化と関係づけることができます。その変化とは、消費の多様化です。

 「現在の若者は普段金を使わないくせに、一点豪華主義でブランド物を買う」という言い方がされたりします。これは一見もっともらしいですが、暗黙のうちに消費「すべき」モノを想定しています。一点豪華主義という感覚は、昔はみんなが欲しがるもの、買わなければいけないものは大体同じだったことの裏返しだと思います。

 例えば都市部では、そこそこの給料をもらえる年齢になったら200〜300万円の自動車を買うという考え方が、暗黙の決まりみたいなものでした。でも、本当に20代後半ぐらいの人全般にとって自動車が、200万円という大金を出す価値があったかというと、恐らくあまりなかったでしょう。かなりの贅沢品ですよね。でも昔はみんなが買うものだったから、一点豪華と言われなかった。でも今、若者がプリウスを買えば、同世代からは一点豪華主義的な消費と見なされてしまうでしょうね。

スカイラインは常識で、シャネルは贅沢?

―― なるほど。

宇南山 みんなと同じものを買わないと目立って見えるだけで、どこかにお金を集中的に使うのは昔の人も今の人も一緒です。ただ、消費が多様化した社会では、集中的に使うものが他の人と一致しない可能性が高いのです。他人とたまたま一致しているか、一致してないかで与える印象が違います。

 昔は若者が日産のスカイラインを買っても、分不相応だと怒る大人はいなくて、「それくらいの年になれば誰でも車は欲しいよね」と言われたでしょう。それが今、自動車なんていらないと言うと、「最近の若者は消費に興味がない、困ったものだ」と論評される。しかし一方で「私、(車は買わないけど)シャネルのバッグ買いました」と言うと、若者のくせに分不相応だと批判する。

 車や海外旅行などの“おじさんにも分かりやすいモノ”を買わないからといって、若者はみな消費意欲が落ちているという言い方で結論付けるのは、少々安易ではないでしょうか。

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著者プロフィール

広野 彩子(ひろの・あやこ)

日経ビジネス記者。1993年早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、朝日新聞社入社。阪神大震災から温暖化防止京都会議(COP3)まで幅広い取材を経験した後、2001年1月から日経ビジネス記者に転身。国内外の小売・消費財・不動産・マクロ経済などを担当し、『日経ビジネスオンライン』、『日経ビジネスマネジメント』(休刊)の創刊に携わる。休職し、CWAJ(College Women’s Association of Japan)と米プリンストン大学の奨学金により同大学ウッドローウィルソンスクールに留学、2005年に修士課程修了(公共政策修士)。近年は経済学コラムの企画・編集、マネジメント手法に関する取材、執筆などを担当。



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