「日本経済のゆくえ」

10年以上賃金が下がり続けている日本

【第6回】需給ギャップと今後の景気の見通し

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2010年7月23日(金)

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【第5回】から読む)

 前回お話ししたように、日本の景気は2009年3月が谷でした。そうなると、もう1年以上景気が良い状態が続いていることになります。しかし、とても景気が良いとは思えないと言う人がたくさんいらっしゃると思います。今回はこの問題を考えてみたいと思います。

なぜ景気回復の実感が得られないのか

 これは実感なき景気拡大といわれることです。前回、2002年から2007年まで戦後最長の景気拡大だったと言いましたが、この時も同じような議論がありました。これにはいろいろな理由があります。

 1つは、経済指標と実感が違うということがあります。景気が良い時は、谷から山に向かう時だと定義されています。これが何カ月か続くのが景気拡大期間です。景気は、レベルで見るか、あるいは方向で見るのかによって違いがあるのです。

 2009年3月に戦後最大の落ち込みを示した後、現在は少し回復したぐらいです。レベルは非常に低い。企業の売り上げは低いし、失業率は高いし、賃金は低いという状態です。だから、方向は上向きなので景気は良いという説明に対して、いや、レベルは低いのだから景気は悪い、という批判が返ってくる。

 これはどんな局面でも必ず起きる問題です。反対に、景気の方向は下がっているけれども、レベルは高いという場合もあります。本質的に、景気を方向で見る議論とレベルで見る議論では印象が違ってくる。これが第1の問題です。

 もう1つの問題は、我々が見ている指標が全部実質であることからきます。実質というのは、このコラムの【第4回】で説明しましたね。名目は我々が直接見ている数字ですが、物価を割り引いたものを実質と言います。普通は物価は割り引いて考えなければいけないので指標は実質を見ます。ところが、現在は物価がマイナスなので、物価を割り引くと実質の数字が増えるのです。

 賃金が去年と横ばいで、賃金上昇率が0の時、物価が2%下がっているから、実質的には賃金は2%上がっていると言われても、もらう金額は同じなので、賃金が上がっているとは誰も思えないでしょう。

 しかし、経済の指標の世界では、物価は割り引いて考えるのが正しいとされています。我々は名目でしか経済を見ることはできませんが、専門の世界では物価を割り引いて見るので、ここに経済の見方と実感の乖離が出てしまうのです。

依然として「景気は良くない」と言う人が8割

 日本銀行では、全国の満20歳以上の個人4000人を対象に「生活意識に関するアンケート調査」というのを行っています。

 この結果を見ると、今年の6月の時点で景気は良いか悪いかを聞くと、悪いと言う人が3割、どちらかといえば悪いと言う人が5割です。1年以上景気は良いとされているのに、まだ8割くらいの人は景気は良くないと言っているわけです。

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著者プロフィール

小峰 隆夫(こみね・たかお)

小峰 隆夫

法政大学大学院政策創造研究科教授。1947年生まれ。69年東京大学経済学部卒業、同年経済企画庁入庁。2003年から同大学に移り、08年4月から現職。著書に『日本経済の構造変動』、『超長期予測 老いるアジア』『女性が変える日本経済』、『最新日本経済入門(第3版)』、『データで斬る世界不況 エコノミストが挑む30問』、『政権交代の経済学』、『人口負荷社会』ほか多数。



このコラムについて

日本経済のゆくえ

経済学という“道具”で世の中を見ると、それまでとは違った視点で物事を考えられるようになるといいます。どうやら、経済学は役に立つ学問のようですが、これまで敬遠していた人、あるいは、ゼニカネのことばかりで物事を考えるのはいかがなものか、とお考えの方も多いのではないでしょうか。このコラムは、これまで経済を本格的に勉強したことのない人に向けて、難しい数式は抜きに、経済学のイロハから、現実の経済政策や日本経済の諸問題について教えていただくオンライン版の“市民大学”です。三鷹市が開催する市民大学総合コースで2010年5月から始まった講義をベースに構成しました。

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