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デフレで私たちは損している? 得している?

消費税率アップができないなら「インフレ税」を“活用”しよう

2011年1月5日(水)

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 「失われた20年」を経て、依然デフレが続く日本経済。民主党政権の元でも財政赤字は一層膨れ上がり、将来世代へのツケがなお積み上がっている。年金改革、経済政策始め、軸足がはっきりしない政権運営に、国民の将来不安は増すばかりだ。

 円高基調の為替相場が続き為替政策にも注目が集まる中で、財政赤字が円高要因になるのは理論的に常識であり、財政再建こそ真っ先に取り組むべき課題と指摘するのが、北海道大学の工藤教孝准教授だ。

 デフレとインフレの本質とは何か、消費税アップが容認できないとしたら、我々にはどんな選択肢があるのか――。経済理論に裏打ちされた洞察から長期停滞脱出の処方箋を探る。

(聞き手は日経ビジネス記者、広野彩子)

―― 日本は10年ほど緩やかなデフレの状態が続いています。デフレの定義は一般物価水準が持続的に下落することですが、デフレ退治のためにインフレ待望論も聞かれます。そもそもデフレはそんなに良くない状態なのでしょうか?

工藤 教孝(くどう・のりたか)
米ニューヨーク州立大学経済学部博士課程(Ph.D)修了。1996年立命館大学経済学部卒業。2005年から現職。専門はマクロ経済学。共著に『サーチ理論~分権的取引の経済学』(東京大学出版会、2007年)がある。日経ビジネスのコラム「気鋭の論点」に定期的に寄稿している。(写真:菅野 勝男)

工藤 それが実は、すべてにおいてそうとは言い切れない部分があります。デフレの場合、僕たちは既に「補助金」をもらっているんです。

 物価が下がっている一方、額面の数字が変わらない貨幣を保有することは、保有貨幣に対して補助金をもらうのに等しい効果があります。本当にデフレが経済に良くないのであれば、デフレの時代に補助をもらわないといけないのは企業のはずで、家計ではないのです。家計はデフレで補助金をもらっている側です。それがもし害ならば、損をしている企業を支援するのが筋です。

―― なるほど。企業関係者が聞いたら涙を流しそうなご意見ですね。例えば、英サッチャー政権の顧問だったパトリック・ミンフォード教授は、デフレでも経済成長はできると断言していました。最適なインフレ率はまだ誰にも分からないとも言っていました。

工藤 そうです。最適なインフレ率があるのかないのか、あるとしたらどのあたりがいいのかについては、理論的にも決着がついていません。もちろんモデルを書くとそこから最適なものは出るんですが、別のモデルを書くとまた別の結果が出てくるので、なかなか決着がつかないのです。

「フリードマンルール」ではマイナスのインフレ率が最適

 理論モデルを使っている立場からすると、著名な「フリードマンルール」といわれるものがあります。これは名目金利はゼロが良いという考えで、この時インフレ率はマイナスになるのですが、それが最適と考えるもので、社会厚生を最大にするインフレ率はマイナスであると結論づけています。

―― ノーベル賞経済学者のミルトン・フリードマンですね。マイナスのインフレ率、つまりデフレが最適というわけですか。

工藤 しかもこれが理論的に非常に頑健なんです。モデルの拡張をし、いろいろな人が挑戦するんですが、「フリードマンルールは最適ではない」という結論を出せない。

 もちろん、最近いくつかフリードマンルールが最適でないケースが報告されてはいますが、大きなインパクトになるほどではない。ここ10年ぐらいの間に、現代的なマクロ経済学のモデルを使って昔と同じ問い掛けを本格的にもう一度やったという仕事が増えているのですが、フリードマンルールの頑健性はなかなか打ち破れないのです。

 その意味でも、デフレを退治した方がいいというスタート地点はコンセンサスを得にくい。そういった理論的な結論と人々の感覚とギャップが出ている理由は、ずっとデフレでかつずっと景気が悪いからでしょう。「デフレ」と「不景気」という言葉が、日本ではほぼ同義語のように扱われてもいます。デフレが嫌だと言っている人の大半は、不景気が嫌だと言っているのではないかとも思います。

―― 一部の企業経営者にとっては嫌なことでしょう。

工藤 経済学的に考える時、世の中にとって良いか悪いかを考えるのは難しいです。例えば消費者にとっては嬉しいけれども企業にとっては嬉しくない、あるいはその逆もある。社会全体で集計すると総和は変わらず、嬉しいと思う主体が右から左に移っているだけだとも言えます。

 1つの物事に両面の意味がある時に、マイナス面だけを見続けると、インフレになろうとデフレになろうと、結局みんな困った、困ったと言ってしまうのではないでしょうか。

―― 英国の1970年代の大不況の時は、インフレ率20%でした。インフレ=好景気ではないし、不況=デフレでもないということですね。

工藤 そうです。不況でインフレだったらもっと悲惨なはずです。ただでさえ稼ぎが少なかったり失業してしまったりした人は、少ない現金預金を頼りに生きているはずです。そこにインフレが襲った場合、なけなしの貯蓄が氷のようにどんどん溶けていくのです。インフレの場合、本当に大勢の生活困窮者が出てくる心配をしないといけないでしょう。

コメント11件コメント/レビュー

確かにそういう捉え方も出来ますね。デフレ化で貨幣価値が代わらなければその差は確かにエコポイントの様なものでしょう。 ただ、現実にデフレで成長できた国はあるのですか?私は聞いたことありません。 話に出てきたイギリスにしてもあれ以降に金融成長を目指して政策を採って、一時期成功いま後悔、している所ですね。 もう一つ、貨幣価値は変わらなくても、家計貯蓄率(家計の可処分所得)はデフレ化では下落します。デフレによる補助とインフレによる所得増はどちらの方が効果が大きいか?インフレの方が大きいと思いますが如何に? 理由:デフレ補助には下限がある為。(2011/01/07)

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「デフレで私たちは損している? 得している?」の著者

広野 彩子

広野 彩子(ひろの・あやこ)

日本経済新聞社NAR編集部次長

朝日新聞記者を経て日経ビジネス記者、2013年から日経ビジネス副編集長。日経ビジネスオンラインでコラムの執筆・編集を担当。入山章栄氏の著作『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』を担当。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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確かにそういう捉え方も出来ますね。デフレ化で貨幣価値が代わらなければその差は確かにエコポイントの様なものでしょう。 ただ、現実にデフレで成長できた国はあるのですか?私は聞いたことありません。 話に出てきたイギリスにしてもあれ以降に金融成長を目指して政策を採って、一時期成功いま後悔、している所ですね。 もう一つ、貨幣価値は変わらなくても、家計貯蓄率(家計の可処分所得)はデフレ化では下落します。デフレによる補助とインフレによる所得増はどちらの方が効果が大きいか?インフレの方が大きいと思いますが如何に? 理由:デフレ補助には下限がある為。(2011/01/07)

デフレ下で労働者の賃金が下がっている、と言う事についての言及が無いのですね。下がる物価の中にも「労働賃金」は含まれているのです。ボーナスが出ない、給料カット、整理解雇など。お給料の額面は下がる方にしか展望が無いので、住宅ローンなど怖くて組めないと考える人がいます(私です)。結局、デフレ期待で物が売れないのに加えて、ローンが必要な高額商品がなかなか売れないと言う事になります。お給料が下がっていない人はデフレ万歳でしょうが、庶民はそんな人ばかりではないのですよ。インフレ待望までいかなくても、せめてデフレさえなければ、と考えるのは当然です。(2011/01/07)

■コラムニストはよほど裕福な家庭に生まれ育ったらしい。・・・■このコラムには決定的な誤りがある。「庶民の大半は貯蓄が氷のように溶けていくのを見ているだけ」「デフレのままの方が、貯蓄してきた庶民にとっては、幸せ」にみられる、「庶民は金融資産を持っている」という誤解だ。ほとんどの庶民は金融資産は数百万程度(ほとんどない者やローンでマイナスの者も多い)である。庶民の最大の資産とは「労働力」なのである。庶民はデフレで貯蓄から儲けるが、その分労働賃金も下がっていくため、年収以上の金融資産を保有していない限りどんどん貧しくなっていく。つまりデフレの最大の問題点は、富を生み出す源泉である労働者(や事業者)から、金融資産を持つ『富裕層への所得移転』なのである。■デフレ社会で最も利益を得るには、ひたすら金融資産を蓄財し搾取階級となり、さっさと労働から引退し奴隷階級から脱することだ。日本でいえば、現役を引退し労働賃金減少に全く連動しない安定した年金をもらい続けてきた高齢者階級こそが最も利益を得る。小生の試算では、デフレ(消費税連動したアップもキャンセル)に連動した場合年金受取額は本来は15%程度減になっていなければならない。■富を生み出す者が損をする、こんなシステムで社会全体が豊かになるだろうか。そう、結果は既に表れている。■コラムに話を戻すが、インフレ税で資産家に追徴課税すべきという意見には賛同する。(2011/01/06)

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三品 和広 神戸大学教授