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「緩やかな介入」でニッポンの耐震性を高めよう

池上 彰さんが経済学者・齊藤 誠さんに聞く(下)

  • 池上 彰,齊藤 誠

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2011年4月8日(金)

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 ジャーナリストの池上彰氏が、マクロ経済学者の齊藤誠氏に、日本の復興への道について聞くシリーズの2回目です。

 前回は齊藤氏に「生産ストックと人的資本という供給側を再構築していくしか復興の道はない」と、これまでの需要中心の経済政策を根本から変えるべきというお話を伺いました。今回は、これからの政策に生かすべき発想の一つ「リバタリアン・パターナリズム」について、建物の耐震性や地震保険の例を出しながら語っていただきます。

 さらに、本当の豊かさをもたらす、これからの「投資」のあり方についても伺いました(この対談は2011年3月15日に行われました)。

前回から読む)

池上 危機の時は元に戻そうという発想では大きな負担感が出てくるし、後ろ向きになるものです。新しいものを作っていくのだという方向で考えていくことが必要でしょう。これを奇貨として、経済政策だけでなく投資の仕方や働き方も大きく変えていく必要がありそうです。政府や行政の役割も変わるのでしょうか。

行政は「最低」を決めるだけでいい

齊藤 これまでは中央政府が多くを抱え込む形の政策でした。しかし、これだけ世の中の経済規模が大きくなり、複雑な利害がある一方で、金も人も行政側にはあまりない。そうなると、行政側が自分たちの能力の限界を認めて、できないことは市民に投げかけるといったことをしなければならないと思います。

齊藤誠・一橋大学大学院教授(写真:陶山 勉、以下同)

 例えばマンションの建て替えの際に耐震性を高めるためにどうすればいいかを考える時、伝統的な方法は耐震基準を引き上げるということでした。これはマンションの居住者に抵抗感が非常に強い。無理やり押しつけられている感じがあるからです。

 そうではなく、行政が設定する基準はあくまで最低限にして、それよりも上の部分は当事者が選択するようにし、選択した人がその分の費用を払うのが望ましい。

 私たちの研究では、首都圏の新築のマンションの耐震性は、9割ぐらいが耐震基準ぎりぎりの耐震等級1なのですが、耐震等級1というのは最低基準で、大地震があっても倒れませんが、やっぱり建て替えなければならない。一方、十分な耐震性を備えていれば継続利用が可能です。

 研究で行ったアンケートでは、最初の段階では耐震性を高めるとコストがかかるから、耐震等級1を選択すると言う人が多かった。ところが、耐震等級の高い基準を「標準」とするような状態にしてみると、意外なことにお金を払ってでも高い基準を選ぶ人の割合が増えたのです。

池上 なるほど。「リバタリアン・パターナリズム」の成果ですね。

齊藤 リバタリアンというのは、あくまで自分の意思決定だけど、パターナリズムというのは少しだけ誘導してあげるという意味です。緩やかな介入ともいいます。

 地震保険でもリバタリアン・パターナリズムの考え方が有効です。日本の家庭向け地震保険は政府と損害保険会社が官民一体で保険責任を分担しているにもかかわらず、加入率は2割強にとどまっているのです。何となくみんなが割高と思っているのがその理由でしょう。

 私たちの調査では、最初に保険料を示した際に、高いから入りませんといっていた人が、その後に同じ保険内容を民間で提供した場合の保険料を示すと、加入する方に判断を変えました。地震保険というのは、実は政府が関与しているから安いのです。

 漠然と割高だと思っている人に、適切な評価軸を与えれば、お買い得だなと考えて、地震保険に入るようになる。加入を左右する動機要因として、所得が低いとか高いとかは、あまり関係ないのです。

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