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「ひどいスタートを切った」復興への第一歩

第1次補正予算の内容を評価する

2011年5月11日(水)

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 大震災への対応は、緊急事態への対応を図る「フェーズ1」から、復興への歩みである「フェーズ2」へと向かいつつある。その第1弾とも言うべきものが、5月2日に成立した2011年度第1次補正予算である。ではこの補正予算に象徴されるフェーズ2への歩みはどう評価されるか。「ひどいスタートを切ったものだ」というのが私の評価である。

フェーズ1からフェーズ2へ

 私はかねてから、フェーズ1とフェーズ2を分けて考えた方が良いと考えてきた。それは、緊急事態であるフェーズ1と復興への道を辿るべきフェーズ2では、基本的な経済パフォーマンス、政策スタンスが大きく異なるからだ。この違いを整理したのが表1である。

表1 フェーズ1からフェーズ2へ
  フェーズ1 フェーズ2
成長率 大幅に低下 むしろ高めに
政策目的 極めて明確(人命救助、被災者生活支援、原発安定化など) 多様な議論が出る(経済の復興、地域の再生、エネルギー政策の見直しなど)
政策手段と効果 コストを意識せず政策手段を投入、効果も明瞭、トレードオフ関係はない 財源問題、土地利用、災害補償などコスト負担の問題が出る。トレードオフ関係が生じる
支えるもの 人々の善意と同朋意識 政治的リーダーシップに基づく選択と集中、経済合理性を貫いた経済政策

 経済のパフォーマンスについては、フェーズ1では、経済活動は大きくダウンして成長率がマイナスになるが、フェーズ2になると、生産活動は徐々に正常化し、失われたストックを回復するための投資需要がこれに加わるため、成長率はむしろ高めになる。このメカニズムについては、前回の本コラム(「3・11ショックが景気に及ぼす影響」2011年4月20日)で詳しく説明したので、ここでは政策スタンスの違いを考えよう。

 まず、フェーズ1では、政策目的は極めて明快である。とにかく人命を救助し、被災者の方々の生活を支援し、原発を安定化させることが必要だ。当然コストはかかるが、この段階では惜しむことなく必要なコストをかける必要があり、他の政策目標とのトレードオフを気にする必要はない。

 しかし、フェーズ2ではそうはいかない。復興のためには巨額の財源が必要だが、既存の経費を見直そうとすれば、既得権益と衝突し、増税はいやがられ、国債を増発しようとすれば市場との折り合いをつけていかなければならない。新しい地域作りを進めようとすれば、どんな振興策を講じるのかについて意見調整が必要になる。停電に備えて節電しようとすれば、誰がどの程度節電するかを決めなければならない。全てにおいてトレードオフが存在する領域に入っていくのである。

 フェーズ1では、人々や企業の無償の善意と助け合いの意識が危機的状況を支えてきた。しかしフェーズ2では、トレードオフを踏まえて、政策目標の優先度をつける必要があり、整合性と経済合理性を備えた政策が求められることになる。

 フェーズ1ではやることは決まっているのであり、誰が政権の座にあっても大きな差はない。しかし、フェーズ2においてこそ本来の経済政策の出番が来る。そしてその舵取りがこれからの日本経済の進路を決することになる。

第1次補正予算の内容

 フェーズ2の政策は既に始まっている。今回の補正予算がそれだ。この補正予算の歳出は、フェーズ1的な課題処理のためのものが多いのだが、その財源については完全にフェーズ2の問題となっている。

 今回の補正予算の概要を整理したのが表2である。左側の歳出の中身をみると、今回の補正予算で対応しようとしていることは、仮設住宅の建設、がれきの処理、社会資本の復旧、自衛隊の活動経費などフェーズ1の緊急対策のためのものがほとんどだということが分かる。

表2 2011年度第1次補正予算の概要(単位:億円)
歳出 財源
災害救助(仮設住宅建設など) 4,829 子ども手当の取りやめ 2,083
がれき処理 3,519 高道路無料化の凍結 1,000
公共事業(道路、港湾、下水道などの復旧) 12,019 基礎年金財源の転用 24,897
施設復旧(学校の復旧など) 4,160 原発立地に備える積立金の活用 500
災害関連融資 6,407 ODA予算の減額 501
地方交付税増額 1,200 予備費 8,100
その他(自衛隊活動経費など) 8,018 国会議員歳費の削減 22
  税外収入(高速料金割引の見直しなど) 3,051
国債増発 なし
合計 40,153 合計 40,153

(注)個別の項目と合計が一致しないのは四捨五入のため。

 しかし、右側の財源については、既にトレードオフの世界に入っている。復興のために巨額の経費がかかることは言うまでもない。もちろんその全貌はまだ誰も分からないのだが、2011~12年度で20兆円程度は必要という意見が多い。今回の4兆円はまだほんの入り口の段階であり、今後復興経費の財源問題はますます大きな問題になっていくだろう。

 では、その財源はどうあるべきか。この点については、私は、まずは「既存経費、特にマニフェスト関連経費の組み替え」で対応すべきであり、それでも足りなければ「増税」、それでもまだ足りなければ「国債の増発」という順番で対応すべきだと考えている(3月23日の本コラム「巨大地震の経済的影響をどう考えるか」を参照)。

 では、今回の補正予算の財源はどうなっているのか。表の右側を見ると分かるように、ほとんど全てが既存経費の組み替えによって賄われており、増税はなく、国債の増発も避けられた。すると、まずは理想的なスタートだったように見える。しかしその内容を吟味すると、とんでもないことになっているのだ。

 表の右側の財源を眺めてみよう。必要とされた約4兆円の財源のうち、予備費が8100億円で、これは使うのが当然だ。税外収入も約3000億円見込んでいる。残りの2兆9000億円が既存経費の組み替えによって賄った分である。ところが、マニフェスト関連予算については、子ども手当の増額と高速道路の無料化実験を取りやめたことで約3000億円を捻出しただけである。残りは2兆6000億円だ。このうちの実に2兆5000億円は「基礎年金財源の転用」によって賄われた。さらに残った1000億円のうちの500億円が「ODA予算の減額」である。これも大問題なのだが、これについては後述する。

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「「ひどいスタートを切った」復興への第一歩」の著者

小峰 隆夫

小峰 隆夫(こみね・たかお)

法政大学大学院政策創造研究科教授

日本経済研究センター理事・研究顧問。1947年生まれ。69年東京大学経済学部卒業、同年経済企画庁入庁。2003年から同大学に移り、08年4月から現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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