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「流言」が飛び交う中でどのように情報をコントロールしたか

第3話 国際社会の一員であることを意識しメディアで積極的に発言

  • 山岡 淳一郎

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2011年5月13日(金)

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 大震災は、社会の底に沈んで見えなかった矛盾を浮かび上がらせる。「空気」のように感じていた制度を具体的に生活の場面に押し出してくる。私たちが暮らす、この国の実相は危急存亡の危機によって「可視化」される、といってもいいだろう。

 東日本大震災で、露わになった権力機構の弱点のひとつが「情報共有力の無さ」だ。大規模な原発災害を引き起こした以上、大本営発表式の発信ではなく、正確で質の高い情報を、いかに被災者、周辺地域、非被災地の国民、さらに国際社会と「共有」するかが問われる。「5W1H」で、いま福島原発で何が起きていて、それに誰がどう対応しているのか、悪い方向へ転じたら、どんな危険があるのかといったメッセージを国際機関と連携して公表することが求められる。上意下達の発信ではなく、「共有」が重要になってくる。

 ところが、文部科学省の「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」のデータが公表されたのは震災発生から2週間近く経過してからだった。政府は、原子力保安院、東京電力、福島県と分散していた原発事故関連の記者発表を一カ所にまとめたが、問われるのはカタチではなく、共有の意思、情報の質だ。いまだにそれは改善されているとは言い難く、原発人災に巻き込まれた被災地は、先の見えない苦闘を強いられている。

「県からも、国からも連絡はなかった」

 4月下旬、私は南相馬市を訪ねた。
 市域は、3月12日、14日の福島原発の爆発で4つに分断されている。まず、海に近い「津波被害地区」は、自衛隊が処理作業に入っているとはいえ、手つかずのところも残っていた。つい昨日まで新潟を凌ぐコシヒカリの産地だった沃野は、大波が運んできた泥土が堆積し、そこには遺体が眠っている。死者・行方不明者は約1400人と推定される。

 警戒区域に指定された「20キロ圏内」は、住民の一時帰宅がようやく始まったけれど、2カ月ちかく放置された代償は大きい。原発事故で一斉に圏外へ逃げる人の群れと逆行して窃盗団が侵入した。その荒っぽい手口から、警察は犯人像を把握しているようだ。

 南相馬市役所や原ノ町駅がある「20~30キロ圏」は、「屋内退避」という生殺し状態を解かれたものの「緊急時避難準備区域」に指定され、病院の入院患者の受け入れや学校の再開を制限されている。約7万人の南相馬市民のうち、5万人弱は市内に戻った。金属加工やリサイクル系の製造業なども少しずつ復活しているが、商店街はシャッターが下りたままだ。ある飲食店主は「東電の一時金(一世帯100万円、個人世帯75万円)が下りたら、すぐに街を出て、神奈川の知人のところに身を寄せる」と言った。

 安全だといわれる「30キロ圏外」も実質的には被災地だ。南相馬市の小中学生は約6000人。そのうち2000人は市内に戻った。が、30キロ圏内では授業ができない。そこで圏外の3校に身を寄せ合って授業を受けている。30キロ圏内の医療が崩壊した状態で、圏外の準公的病院がやっと入院受け入れを認められ、綱渡りの診療が行われている。

 一時、風評が乱れ飛び、南相馬にはガソリン、食料、支援物資などがまったく入ってこなくなった。原発事故発生後、政府が10キロ、20キロ、30キロと同心円状に避難、屋内退避(「自主避難」という曖昧な指示も)と危険地域を広げるに従って、風評は拡大した。SPEEDIのデータをもとに内閣府が発表した「内部被ばく臓器等価線量」では、放射性物質は同心円状ではなく、福島原発を中心に蝶が羽をひろげたように飛び散っている。南相馬の原町地区には蝶の羽はかかっていない。大気中の放射線量は福島市のほうがはるかに高い。

 にもかかわらず、ゴーストタウンのように孤立した。
 桜井勝延・南相馬市長は語る。

 「原発事故を最初に知ったのは報道を通してでした。県からも、国からも連絡はなかった。ずっと国や東電には情報を開示してほしいと言い続けてきました。東電のスタッフも、ここに張り付くようになりましたが、作業の説明をされる程度で、いまも原発がどうなっているのかわからない。3月25日にやっと枝野官房長官と電話がつながったので、言いました。いまごろ自主避難なんて言ってるけど、現場感覚がないと皆から総スカン食らうよって。われわれは官邸の指示に従って自主避難を呼び掛けて、やっとのことで終わったんです。でも、圏外に逃げた人たちも、生きていくためには仕事をしなくちゃいけない。事業所も再開し始めて、どんどん戻ってくる。そんなときに自主避難なんて……。最初に現状把握をしないで、対応策を立てたところでズレたんです」

視察中に大臣クラスを怒鳴り上げた党首

 緊急事態での情報の扱いは難しい。菅政権は原子炉建屋が吹っ飛んで動転した。そこまでは仕方ないとしよう。だが、その後も情報の共有化には成功していない。官僚任せで、情報に軸がない。これは政権中枢の政治家の資質のせいだろう。誰かが言っていたが、政権を取って、これほど育たない首相と官邸も珍しい。システムよりも人の問題なのだ。

 ある党首が4月中旬に南相馬を視察している。彼は郵便が30キロ圏内に届かず、銀行も閉まっていることに憤り、その場で大臣、副大臣クラスに電話をかけまくって「(官僚に)馬鹿にされてんじゃねぇぞ! さっさと郵便を届けさせろ、銀行開けさせろ!」と怒鳴りあげた。翌日から郵便局も銀行も再開へと動き出している。これは偶然なのだろうか。

 情報は「劇薬」だ。操る人間の腹ひとつで毒にも薬にも変わる。これは一面の真理であり、時代を超えた普遍性を帯びている。

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