• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

「貿易収支の赤字」は「日本の競争力の衰え」なのか

国際収支を巡る議論 現状編

2011年6月22日(水)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 前回は国際収支についての基礎的な事項を説明し、(1)貿易収支だけで見るのはあまり意味がない(経常収支はまだ意味がある)、(2)経常(貿易)収支の黒字が赤字より望ましいわけではない、(3)国際収支はそれ自身が政策目標となるのではなく、多様な経済活動を映し出す鏡だと考えるべきである、ということを説明した。

 今回は、その国際収支に最近現われている変化について考える。論点が多岐にわたるので、最初にどんな点を論じていくのかを明らかにしておこう。

 第1に、震災後、貿易収支が赤字に「転落した」ことがしばしば取り上げられている。「転落した」という言葉に象徴されるように、貿易収支の赤字化は日本経済そのものが経済の活力を失いつつあることを示しているように受け止められているようだ。これは正しいのだろうか。

 第2に、やはり震災と関連して、「外貨準備を復興財源として使ってはどうか」という考えが出てきた。確かに、日本は90兆円以上の外貨準備があるのだから、これを復興財源にするのは名案に見える。本当にそうなのだろうか。

 第3に、やや長期的に見ると、貿易収支だけではなく、経常収支もまた近い将来赤字に「転落する」と言われている。前回述べたように、経常収支は資本収支と(符号が逆で)同じ動きをすることになっており、経常収支が赤字になると資本収支は黒字となる。つまり、日本が借金をすることになる。すると、巨額の財政赤字についても海外からの資金に頼ることとなる。その時日本の国債の信用は維持できるのだろうか。

 第4に、経常収支は国際的な視点からも注目されてきている。いわゆる「対外不均衡」の議論がそれである。経常収支の反対側は資本収支なのだから、経常収支の不均衡が大きいと、それだけ国際的なネットの資金移動も大きくなりがちとなる。それがバブルを産むなどして経済を混乱させることが懸念されている。

 このように、現時点での国際収支をめぐる論点は多岐にわたっている。このうち今回は、震災との関係で生じている第1の論点を取り上げる。

 日本の貿易収支は、長い間黒字を続けてきた。しかし、震災を契機としてこれが赤字となった。新聞や雑誌で「貿易収支赤字に転落」と報じられた現象である。この原因を探り、それを評価するために、ステップを踏みながら考えていこう。

ステップ1 貿易収支と経常収支の関係を見る

 前回説明したように、震災前の日本の経常収支の標準形は、(1)貿易収支は黒字でサービス収支は赤字、(2)貿易収支黒字の方がサービス収支の赤字より大きいので、貿易・サービス収支は黒字、(3)所得収支は大幅黒字、(4)この結果経常収支は大幅な黒字というものであった。これが大震災を契機としてどう変わったのかを見ておこう。

 もっとも大きく変わったのは貿易収支である。国際収支統計によると、震災前2011年2月の貿易収支は4907億円の黒字、経常収支は1兆2200億円の黒字であった(季節調整値、以下同じ)。ところが、この貿易収支が、3月には333億円の黒字に縮小し、4月には5611億円の赤字になってしまったのだ。全く劇的な変化である。

 ただし、それ以外の項目については目立った変化は見られていない。この結果、経常収支は3月が7527億円、4月も5463億円の黒字であった。

 「貿易収支が単独で重要な経済的意味を持つということはなく、意味を持つとすれば経常収支だ」というのが前回の説明であった。この説明が正しいとすると、「貿易収支が赤字になったこと」それ自体に大きな意味があるわけではなく、意味があるとすれば「貿易収支が黒字から赤字に変化したことによって、経常収支の黒字が大きく減少した」ことだということになる。

 ただし、これまた前回の説明で「国際収支は、経済活動を映す鏡である」ということだった。すると、「貿易収支が赤字になった」ことそのものよりも、「なぜ貿易収支が赤字へと劇的に変化するようなことが起きたのか」という背景の方が重要だということになる。以下、その背景を見ていこう。

ステップ2 輸出の変化と輸入の変化

 そこで次のステップとして、貿易収支がなぜ変化したのかを見るために、これを「輸出」と「輸入」に分けることにしよう。「貿易収支」自体が独立に変動することはなく、必ず「輸出の変動」と「輸入の変動」の結果として貿易収支が変動するからだ。

 まず輸出金額の前年比を見ると(原数値、以下同じ)は、2月は9.7%増だったが、3月は1.4%減、4月も12.7%の減少となった。明らかに震災以降輸出が減っていることが分かる。一方輸入は、2月は13.1%増だったのが、3月は16.6%増、4月も12.3%増となっている。つまり、輸入のほうは震災前から高い伸びとなっており、それが震災後も続いていることが分かる。貿易収支が赤字になったのは「輸入金額が高止まりする一方で、輸出金額が激減したからだ」ということになる。

コメント8

「小峰隆夫のワンクラス上の日本経済論」のバックナンバー

一覧

「「貿易収支の赤字」は「日本の競争力の衰え」なのか」の著者

小峰 隆夫

小峰 隆夫(こみね・たかお)

法政大学大学院政策創造研究科教授

日本経済研究センター理事・研究顧問。1947年生まれ。69年東京大学経済学部卒業、同年経済企画庁入庁。2003年から同大学に移り、08年4月から現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック