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サプライチェーンはなぜ弱かったのか 

藤本隆宏・東京大学教授×竹森俊平・慶應大学教授対談 その1

  • 竹森 俊平

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2011年6月30日(木)

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 2万人を超える犠牲者、無数の住宅の喪失、今度の震災の爪痕はまことに痛々しいが、経済への影響に限れば、生産能力への打撃が何といっても重大である。電力不足は今後数年続くと予測される。製造業のサプライチェーンは生産工場への被害で分断されている。「電力不足」と「サプライチェーン分断」が絡む複合的な問題も発生する。

 昨今の消費に力がないのは、この生産能力への打撃が原因である。それは生産と所得に直接悪影響をもたらしているだけでなく、将来の不安を生むことを通じ、投資や消費の意欲を減退させている。

 どうするべきか。ともかく、失われたものを回復する努力を続けなければならない。その努力が次第に実を結べば、不安も次第に滅る。ともかく、行動を始めなければならない。

 筆者の務めている慶応大学は、原発事故の影響で、4月の授業開始を2週間も遅らせた。こういう不安な時には仕事をするのが一番なのだが、その仕事ができない。そこで思い切って、某出版社の机を借り、2週間で「震災復興」に向けた提案を本にすることにした。最近発刊した『日本経済復活まで』(中央公論新社)という拙著である。藤本隆宏氏はその共著者といっても良い。

 復興といっても、どのような道筋をたどって復興が可能かは、製造業の内情を知り尽くしている人でなければ語れない。また電力の問題がどんな重石になるかも、同じように製造業の深い知識を必要とする。そこで本を書くにあたり、今日本の製造業がどんな状態にあるのかをメールで藤本氏に問い合わせたところ、実に詳しく、素晴らしい分析が帰ってきた。

 復興を語る上で、まことに重要な情報だと思えたので、私信として受け取ったメールを拙著に掲載してよいかと藤本氏に尋ねたところ、快くOKをいただいた。それだけではない。この間の情報には誤りがあったと言って、後に細かく添削して返信してくださったのだ。実に寛大な、誠実な態度である。

 今回の対談では、藤本氏からさらに最新の情報を聞くことができた。いつもどおり歯に衣を着せない、ポイントを明確に突いた見事な分析である。こうした分析もさることながら、震災の打撃という大問題を前にして、藤本氏のように、冷静に、前向きに行動している人物がいることを、是非、読者に知っていただきたいと考えた。こういう人たちの行動が積み重なって、初めて大災害からの復興が可能になるのだから。

―― 東日本大震災では、日本のサプライチェーン(供給網)が寸断されたことが、日本の自動車産業はじめ、世界中の生産システムに大きな影響を与えました。特に半導体製造のルネサスエレクトロニクスの工場の被災は、自動車生産に大きな影響を与えました。

藤本 ルネサスエレクトロニクスは茨城県の那珂工場が被災しましたが、再開の時期を前倒ししましたね。同社やユーザー企業や設備供給企業が総力を挙げて復旧させた結果です。

竹森 ルネサスは自動車部品のどこを作っているんですか。

代えがきかず、設備から引きはがせないことが重なった

藤本 基本的にマイコンです。今の自動車には、エンジンの燃料噴射制御、車体の安全制御、カーナビの制御などのために、多くの「電子制御ユニット(ECU)」が搭載されていますが、その回路基板の上には、他の電子部品とともに、マイコンと呼ばれる半導体集積回路のチップが載っています。デンソーなど、自動車の機能部品メーカーは、このマイコンをルネサスなどの半導体集積回路メーカーから購入し、そこに、自動車のモデルや部品の品種ごとに異なる、製品特殊的あるいは部品特殊的な「組み込みソフトウェア」を書き込みます。

藤本 隆宏(ふじもと・たかひろ)
東京大学大学院経済学研究科教授、ものづくり経営研究センター長。1955年生まれ。東京大学経済学部卒業。三菱総合研究所を経て、ハーバード大学ビジネススクール博士課程修了(D.B.A.)。独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ファカルティフェロー、ハーバード大学ビジネススクール上級研究員。専攻は技術管理論、生産管理論、経営管理論。著書に『生産マネジメント入門』『日本のもの造り哲学』『能力構築競争-日本の自動車産業はなぜ強いのか』など多数(写真:陶山勉、以下同)

 書き込まれる側のマイコンそのものは、基本的に、製品特殊的でも部品特殊的でもない、標準的な電子部品なのですが、ルネサス製などの現世代のマイコンは、その開発環境などが半導体メーカーごとに異なるため、いわば「工程特殊的」となっています。したがって、例えばルネサスの半導体製造工程が被災し供給不能になれば、そこが作る工程特殊的なマイコンは「代替不可能性」が高い(つまり代えがきかない)ために、そのマイコンに対応する部品も生産不能になります。

 例えばマイコンがエンジンの肝に入っていたら、その品種のエンジンは造れなくなるし、カーナビに入っているのであれば、その品種のカーナビ抜きの車しか造れなくなります。これが大きな影響が出た理由です。

 もう1つは、僕の言葉で言うと、マイコンの設計情報が「ポータブル」つまり移設可能ではなかったことです。例えば、マイコンの製造に必要な設計情報の詰まった露光用のフォトマスク(設計情報)を、被災した半導体露光装置から“引きはがし”、他工場の半導体製造ラインに移設することが容易でなく、多くの場合、設備ごと直すしかなかった。

 このように、「代えがきかないこと」と、「設備から引きはがせないこと」の2つが重なると、サプライチェーン被災の影響が大きくなるのです。その点、メカ製品の場合だと、例えば金型や工具は、プレス設備や工作機械設備から比較的引きはがしやすい。そうやって設計情報の固まりを引きはがして、ほかの自社ラインに持っていったり、場合によっては他社のラインに持っていったりする。これで、被災時にも何とかなるのです。1997年にアイシン精機のブレーキ製造ラインが火災を起こした時も、新潟県中越沖地震でリケンのピストンリング製造ラインが被災した時も、そのようにしてすぐ復旧しました。

 一方、阪神・淡路大震災から今回の東日本大震災の間に、部品供給のグローバル化と、部品制御のデジタル化が進みました。グローバル化の影響で、日本である部品の供給が途絶すると、海外の意外なところで生産が止まるという事態が起こりました。また、デジタル化の影響で、メカ製品の復旧とは勝手が違うものが出てきた。その最たるものがマイコンだったのです。

竹森 以前に藤本さんと対談した時、自動車と違い、エレクトロニクス製品の場合にはどんどんモジュール化が進んでいて、生産拠点を入れ替えるのも簡単というお話をした記憶があります。ところがルネサスが造っていたのは製品特殊的で、入れ替えができない製品だったということでしょうか。

藤本 そうですね、組み込みソフトが書き込まれた段階で製品特殊的になります。マイコン自体は、先ほど言いましたようにサプライヤー特殊的ですが、いわば、事後的に製品特殊的にもなるわけです。しかもルネサスは、自動車向けマイコンで40%以上という、高い世界シェアを持っていたので、世界的に大きな影響が出ました。もっとも、世界全体の傾向としては、おっしゃるように、車載半導体の製品設計や工程設計が、よりモジュラー化、標準化する傾向はみられるのですが。

竹森 ルネサスの被災状況はどの程度深刻だったのですか。

藤本 単純に地震の揺れで建物や設備が壊れたようです。最新鋭の機械を古い建物に入れていたこともありました。生産ラインを復旧させなければだめで、ほかのラインに設計情報(例えばウェハーに回路設計情報を転写するためのフォトマスク)を移設することが容易でなかったんです。

 このように影響が大きかったため、取引先の自動車メーカーなどが人を送り込んで復旧に邁進しました。また、半導体露光装置の製造メーカーは、現地で直しても間に合わないから自社工場に持って帰って修理するということもやったようです。“オールジャパン”で、あるいは海外の半導体製造装置メーカーも加わって復旧につとめた結果、同社の努力も相まって再開が早まったということは、立派なことだと思います。

 今回の震災では、新幹線も道路も復旧が早かったし、やはり復旧能力の腕は上げていますよね。ただ、災害の規模がものすごかったので、能力が負荷に追いついていないというのが現状でしょう。

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