ポイント
・国債を永遠に借り換えるポンジー・ゲームで増税を逃れようとするのが「ポンジー財政政策」
・ポンジー財政政策の考え方は我が国の財政政策に影響を与えてきた
・経済学ではポンジー財政政策は現実的ではないとされる
・財政赤字ギャンブルは将来世代に対する「財政的児童虐待」
2008年末、リーマンショックの影響の去らないニューヨークで、NASDAQの会長まで務めた投資会社社長バーナード・マドフが逮捕された。嫌疑は、巨額の証券詐欺。日本の大手金融機関を含めた世界中の有名機関投資家から投資資金を集めたマドフの投資会社だったが、実際には投資はなされず、新規の顧客からの投資資金を過去の顧客に投資成果として支払う自転車操業を続けていた。日本でいうネズミ講だが、英語ではポンジー・ゲーム(またはポンジー・スキーム)という。20世紀初め、チャールズ・ポンジーがボストンで同種の詐欺を大々的に行ったことから、そうした詐欺にポンジー・ゲームの名が付けられたのである。マドフ本人は翌年に150年の懲役判決を受け、現在服役中である。
マドフが行ったのは総額約650億ドル(諸説ある)のポンジー・ゲームで史上最大規模の詐欺と言われた。しかし、これをはるかに上回る数百兆円規模のポンジー・ゲームが1999年に提唱され、2000年代半ばまで実施が想定されていたことはあまり認識されていない。我が国の財政政策のことである。
ポンジー・ゲームによる財政再建の提唱
国債の満期が来れば、通常であれば増税等で確保した財源で国債の元利償還が行われる。しかし財源が確保できなければ、元利償還の資金もまた国債を発行して借金で調達することが考えられる。この借り換えを永遠に繰り返すことができれば、増税を避けることができるかも知れない。このネズミ講的な財政スキームも、ポンジー・ゲームの一種である。
しかし、元利償還を行うには、元本だけでなく、利子も支払わねばならないから、実際には、国債の残高は金利のスピードで無限大まで増加してしまう。これに対し、経済成長率が金利より低ければ財政破綻するが、経済成長率が金利より高ければ、その国の経済は金利より高い率で成長するので、国債のGDP比率は収束し、問題がないとするのが、我が国ではよく言及されるドーマーの定理である。
このドーマーの定理を持ち出して、ポンジー・ゲームにより我が国の抱える膨大な公債に係る負担を回避しようとする財政政策(本稿では「ポンジー財政政策」と呼ぶことにする)が提唱された。小渕内閣の下に設置された「経済戦略会議」の1999年の最終答申である。小渕内閣では、景気対策として財源の確保なしで巨額の所得減税・公共事業が実施されたが、その結果、巨額の公債残高を抱え、小渕総理が「世界一の借金王」と自嘲する厳しい財政状況に陥った。このため、同会議の最終答申では、財政再建の道筋を示すことが求められたが、その回答の一部として。ポンジー・ゲームによる財政再建が提唱されたのである。
具体的には、同最終答申は、(1)プライマリーバランス(公債費を除く歳出と租税等の歳入の差。基礎的財政収支とも呼ばれる)の赤字を極力速やかにゼロに回復させること、(2)名目成長率が名目金利を上回る状況を実現することの2点により財政の持続可能性が回復できると強調しており、ポンジー財政政策の考え方を明確な形で提示している。
2001年の小泉内閣において、ポンジー財政政策の主唱者である竹中平蔵氏が経済財政担当大臣となったことから、以後、2000年代半ばまで、我が国の財政再建戦略にポンジー財政政策の考え方が色濃く反映されるようになる。例えば、2002年1月の「改革と展望」では、2010年初頭までの国・地方合計のプライマリーバランスの黒字化が望ましいとされたが、同文書では、黒字化と同じ頃には政府の債務残高の対GDP比の動向も改善すると見込まれるとしており、経済戦略会議答申以来のポンジー財政政策の考え方が背景にあることがわかる(ポンジー財政政策の考え方を否定する場合、プライマリーバランスの単なる黒字化では債務残高の対GDP比は発散を続ける)。
しかし、2005年後半になると、経済財政担当は与謝野馨大臣に変更となり、プライマリーバランスの単なる黒字化を財政再建目標とすることに対する疑問が政府部内でも示されるようになった。2005年末には、経済財政諮問会議において、成長率と金利の関係についての論争が行われ、長期金利が成長率より高いとの前提に基づく「改革と展望」の改訂案に竹中総務大臣が反発するのに対し、理論的には長期金利の方が名目成長率よりも高くなるのが正常な姿である等の批判が吉川洋東京大学教授等の他の参加者から行われた。いわゆる「成長率金利論争」である。
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