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大企業本社はなぜ「組織的鬱病」なのか

藤本隆宏・東京大学教授×竹森俊平・慶應大学教授対談その2

  • 竹森 俊平

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2011年7月7日(木)

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竹森 今まで日本はデフレで、設備過剰経済でしたが、震災を経ておそらく供給不足を経験します。これは経済と経営者のマインドを変えていくのではないかと思います。

 エレクトロニクスの分野では、韓国のサムスン電子は景気が良くても悪くても研究開発投資を続けていましたが、日本の企業はどんどん投資を削っていた。これでは負けてしまいます。しかも日本の企業はお互いに小さいマーケットを取り合っている一方、韓国は金融危機をきっかけに1財閥が1分野というように収斂させています。

 規模の経済性だけが重要かどうかは分かりませんが、攻めの経営という、もっと積極的な考えに変わっていくチャンスにもなるのではないかという気がするのです。

内部留保で貯め込み国内向けの戦略的投資がない

藤本 先日も、都心の大企業の本社をいくつも回ってきた米国の友人が私のオフィスに来て、「日本の大企業本社は病気じゃないか。なんであんなに弱気なのか、理解できない」と言っていました。病名を言うなら「組織的鬱病」でしょうね。近年、日本の大企業本社の多くは、心理的に縮こまっているとの印象はあります。

藤本 隆宏(ふじもと・たかひろ)
東京大学大学院経済学研究科教授、ものづくり経営研究センター長。1955年生まれ。東京大学経済学部卒業。三菱総合研究所を経て、ハーバード大学ビジネススクール博士課程修了(D.B.A.)。独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ファカルティフェロー、ハーバード大学ビジネススクール上級研究員。専攻は技術管理論、生産管理論、経営管理論。著書に『生産マネジメント入門』『日本のもの造り哲学』『能力構築競争-日本の自動車産業はなぜ強いのか』など多数(写真:陶山勉、以下同)

 株主は怖いからそこそこ配当はするけれども、あとは内部留保でため込む。後は逃げの海外投資で、国内向けの戦略的な投資はほとんどない。そういう会社に対して法人税率を下げても、国内の経済成果は期待できないと言わざるをえません。むろん、元気にM&Aや戦略投資を続ける活発な経営者もいらっしゃるので、十把一絡げには言えませんが、ある種の組織的鬱病が、多くの大企業の本社や経営者に蔓延していることは様々なデータや観察結果からも、間違いないでしょう。

 たとえば、円が高ければ、この際、懸案だった海外M&Aに打って出るのも良い。円高に耐える強い国内現場を生かしたビジネスモデルの革新もある。新興国に一貫した開発・生産・販売拠点を構築して海外市場で逆襲にかかった企業もある。円が万一暴落すれば国内拠点から輸出を大々的に仕掛ける。

 いずれにせよ、超円高も超円安も含め、将来が不確実な今は、国内も海外も維持強化し、少なくとも2系統、設計情報の太い流れを確保するのが定石で、国内一辺倒も海外一辺倒も上策ではない。そんな時代に、いかにひどい大震災に直面したとしても、冷静な長期競争力分析を忘れ、地震が怖いからというだけの理由で性急に海外に拠点を移す会社があるとすれば、それは、いわば落第点の解答でしょう。

竹森 前から出たいと考えていた企業はいいけれど、震災を口実に海外に出て行くような企業はだめだということですね。

藤本 おっしゃる通りです。先ほど言いましたように、国内には、高機能品・高価格品を中心に、研究開発から生産技術、製造、購買、販売、サービスを含む一貫した設計情報の流れを、1系統完全に残し、日本の現場が得意な、複雑なインテグラル(擦り合わせ)設計の高機能品の牙城はきっちりと守る。新興国市場に気を取られるあまり、ここを御留守にすれば、低価格モジュラー製品で中国製品に対する警戒感を強める韓国大企業勢は、喜んでそこに入ってくるでしょう。私が韓国人経営者であったとしても、ウォンが安いうちに日本が占拠してきた高機能インテグラル製品に参入したいと考えるでしょう。事実、サムスン電子や現代自動車は、着々とこの分野での実力を高めており、厳しい競争が続きます。

 グローバル競争において、円高の今は日本の正念場です。得意なものに集中しなければやっていけない。より長期的には、苦手なものも能力構築で克服する必要がある。当面、日本が得意な貿易財の多くは、設計が面倒くさいもの、擦り合わせ型で複雑なもの、高機能なものです。つまり、高くても買ってもらえるもの。これは絶対に残す方針を維持する。買ってくれる人を世界中に確保するブランド力、現地市場把握力も強化する。

 しかしその一方で、新興国で大量に売れている、相対的に低価格、低機能でシンプルなモジュラー型製品に関しては、新興国の中に、開発から生産まで、設計情報の流れをもう1系列持ち、本国の高機能品ラインと合わせて、グローバルに少なくとも2系統の設計情報の流れを確保する。このグローバル両面戦略を取る日本企業は既に出てきています。

竹森 それは自動車産業以外の分野でもですか。

藤本 そうです。むしろ自動車産業以外に先進事例があり、たとえば車載電子機器メーカーA社、冷凍設備メーカーB社などはそうでしょう。下は下で、城から打って出て押さえるが、上は上で、今の城はしっかり守る。この2系統の間で、しっかり連携と情報共有を行えば、機能要求が急速に高まる新興国市場では、有利な展開が期待できます。

中はインテグラル、外はモジュラーが強い

竹森 韓国の人と話していると、やはり日本の部品メーカーは強い、自由貿易協定が進むと怖いと言います。ところが日本の部品メーカーは売り込みが下手なのかどうか分かりませんが、儲からないと言う。もし部品が本当に強いのであれば、部品だけに特化してでもこの国が食べていけるようにすればいいのではないかと思うのですが。部品を売り込む相手を選び、その相手との交渉力を強くして儲かるようにできないものかと。ドイツはボッシュといった企業が製品の質でも交渉力でもすごく強く、だから儲けています。

藤本 たしかにボッシュは技術力もありますが、自社に有利な標準化を進める政治力もありますね。一方、日本企業は、儲かっている会社も確かにあるのですが、私の分類では「中インテグラル・外インテグラル」型の製品が多く、それらは高機能なカスタム品ですから、量産効果が出ず、営業費用も高く、全体に高コストになりがちです。また、顧客に対しては製品特殊的(代えがきかない)な部品になってしまうので買い叩かれる恐れがあります。

 一方、日本の部品企業は、儲かっている会社は、例えば自転車部品大手のシマノのギアです。インテルと同じで、製品の内部構造は複雑なインテグラル型ですが、売り先の自転車メーカーの多くは、部品を組み合わせて作るモジュラー型製品。つまり「中インテグラル・外モジュラー型」の標準品で、だから業界トップなら量産効果が上がって儲かります。

 ボッシュも、自動車部品の中では比較的インテルに近い位置取りです。中はインテグラル、しかし外はややモジュラー。デンソーの先輩格であり、ライバルでもあります。

竹森 1位と2位の差ってものすごく大きいわけですね。

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