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なぜ私たちは「過剰な自粛」に走ってしまうのか

「空気」が持つパワー

  • 本田 哲也

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2011年7月8日(金)

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 日本社会は次々に起こる異常事態に翻弄された。そんな中で、象徴的な現象が起こる。「過剰な自粛」と呼ばれる行動だ。被災地のことを思えば、これまで「楽しい」と思えた行動にブレーキがかかるのは当然だ。贅沢な食事や、華美な服装や、没頭していた娯楽――その全てが、一夜にして「ふさわしくない行動」として塗り替えられる。これ自体は、突如私たちを襲ったショックと、私たちが本来持ち合わせている「良心」が相互作用すれば、誰もが自然にとってしまう行動ではある。

 しかし本来、「自粛」は主体的な行動だ。だからこそ、冷静な個々人の判断で、個々人が終わらせることのできる類の行動であるべきものだ。それにもかかわらず、震災後の日本で日に日に増幅したのが、「過剰な自粛ムード」だった。冷静に、そして論理的に考えれば、例えば東京において外食や飲酒を必要以上に控えることは決して被災地のためにはならない。それどころか、消費を控えることは、ピンチに陥った日本の消費経済を停滞させることに他ならない。経済学者ならずとも、ちょっと考えればそれは分かる――だがしかし、とは言うものの、なのだ。「まあ、世の中的になんとなく」「なかなかそうできる雰囲気でもないし・・・」という気分が蔓延する。これまで持ち合わせていた理屈や客観的判断を凌駕して、その気分が人々の行動を決めさせている。

 これが、世の中に生み出される「空気」のパワーなのだ。この「空気」とは何か。私はこれを、「多くの人々が、暗黙のうちに共有している情報や意識の集合体」と定義している。「空気」は、私たちが日々吸っている空気同様、目には見えないけれど、あらゆる論理や主張も超えて、私たちを拘束し、行動を決定づける。そしてまた、この「空気」というものに影響を受けやすいのが、他でもない私たち日本人なのである。「KY=空気が読めない」という表現が生まれるのも、空気に敏感な日本人ならではと言えるだろう。

 ここで重要なのは、「空気は人の行動に影響を及ぼす」ということだ。戦争や震災という事象は、確かに「暗いムード」を蔓延させる。しかし、単に「世の中が暗い」ということだけではなく、それが人々の行動動機に結びつくというメカニズムを認識すべきだろう。誰かが「自粛をしよう!」と旗を振るわけでもなく、「空気」の存在そのものが行動の理由となる――それが「空気」のパワーなのだ。

「空気をつくる」という発想 戦略PRという方法論

 人を動かすチカラを持つ「空気」という存在。今回の大震災や太平洋戦争時という有事には、瞬く間にこうした空気が自然に醸成され、結果として大衆を動かす。ではこの「空気」を意図的に、また生産的な目的を持って創出することは可能なのか。これこそ私自身が戦略PRプランナーとして10年以上取り組んできた「空気づくり」というテーマであり、自著の「戦略PR 空気をつくる。世論で売る。」で説いたことだ。「空気」は本質的にコントロールできるものではなく、お金をたくさん積めば生まれるものでもない。しかしその発生にはある一定のメカニズムや法則と呼べるものがあり、それらを体系化させたものが現在「戦略PR」と呼ばれる方法論だ。戦略PRとは、簡単に言えば「消費者が関心を持つような『空気』を世の中につくって、それをうまく商品の売りにつなげる」という考え方。「ピロリ菌が胃に悪さをしている」という空気をつくって、「ピロリ菌を退治できるヨーグルト」の売りにつなげたり、「赤ちゃんの睡眠が社会問題だ」という空気をつくって、「赤ちゃんの睡眠環境を考えたおむつ」の売りにつなげたりする活動だ。

 空気をつくるには、3つの必須要素がある。それが、「おおやけ」「ばったり」「おすみつき」と呼んでいるものだ。「おおやけ」は、広げるテーマに必ず公共性や社会性を付加すること。これによってマスコミでの波及をはかる。「ばったり」は、「情報との偶然の出会い」を演出すること。ソーシャルメディアでのクチコミはこれにあたる。「おすみつき」は、情報に第三者的な信頼性を与えること。インフルエンサー(影響者)と呼ばれる有識者やカリスマの巻き込みだ。この3つを軸にして情報戦略を設計し、波及させるわけだ。

 ここ数年の大きな変化――企業の情報発信に懐疑的な消費者の出現、メディアの多様化、情報洪水の発生――を背景に、急速に広告業界で着目されるようになったのがこの「空気づくり」の発想であり、戦略PRという方法論だ。しかしこの震災というひとつの転機を経て、企業がどう「空気」を扱っていくかという課題は、これまでになく重要になると私は感じている。皮肉なことに、消費者を「過剰な自粛」へと走らせた背景に「空気」の存在があったことは、現代的な消費者の行動原理と「空気」の相関性を実証したとも言えるのではないだろうか。

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