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経常収支の赤字を懸念せざるを得ない理由

国際収支を巡る議論 現状編 その3

2011年7月20日(水)

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 これまでの連載の中で示してきたことは、「貿易収支そのものはそれほど問題ではなく、問題があるとすれば経常収支だ」ということであった。ところが、最近その経常収支が赤字になるという見方が強まっている。今回は日本の経常収支について考えてみよう。

雪だるま式に増えてきた日本の経常収支

 日本は長い間経常収支の大幅黒字国であった。表は80年代半ば以降、最新時点までの経常収支の動きを見たものである。これによって次のようなことが分かる。

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 第1に、日本の経常収支はかなりの期間大幅黒字を続けてきた。この表より前に遡ると、1979年と1980年に石油価格の上昇によって経常収支が赤字になったことがあるが、それ以降は黒字を続けている。

 しかも日本の黒字額は国際的に見てもかなり大きく、2005年までは世界一だった。2006年以降は中国が世界一で、2010年の中国の経常収支黒字額は3062億ドル、日本は第2位の1948億ドルである。

 第2に、その内訳を見ると、経常収支の黒字は、貿易収支の黒字と所得収支の黒字によってもたらされていることが分かる。注目すべきは、両者の相対的な大きさだ。90年代前半までは圧倒的に貿易収支の黒字幅の方が大きかったのだが、その後逆転し、近年では圧倒的に所得収支の方が大きい。日本は貿易で稼ぐ以上に、利子配当所得で稼いでいる国になっているのだ。

 これは次のようなメカニズムが作用したからである。経常収支は、貿易・サービス収支と所得収支の合計である(以下、移転収支はウエイトも小さく、基本的なストーリーとは無関係なので無視する)。日本の貿易・サービス収支はこれまで大幅な黒字を続けてきた。貿易・サービス収支の黒字は必ず対外資産を増やす。対外資産は証券や、直接投資で得られた生産設備などであり、そこから利子所得やロイヤルティーが入ってくるので、これが所得収支の黒字を増やす。つまり、経常収支は増え始めると「雪だるま式」に拡大していくのである。

 この雪だるまのメカニズムはかなり強力である。日本の貿易・サービス収支は、30年以上もの間大幅な黒字を続けてきたので、それが累積した結果としての対外資産は巨額なものとなっている。2010年末の対外純資産残高は実に251.5兆円、名目GDPの約半分の規模である。第2位は中国の167.7兆円だから、日本は圧倒的に世界一の対外資産保有国である。これだけの資産を保有していれば所得収支が巨額なものとなるのは自明である(ただし、保有資産規模の割には所得収支黒字が小さいという指摘はある)。

 そして第3は、震災後、経常収支黒字が急減していることである。変化したのは貿易収支である。2月は4873億円の黒字だったが、震災を機に3月は300億円の黒字に縮小し、4月以降は赤字に転じた。その理由が、原油高などによる輸入金額の高止まりとサプライチェーン(供給網)の寸断による輸出の減少であることは前々回に詳しく説明した。

 一方、サービス収支は赤字が続いているから、貿易収支とサービス収支の和である貿易・サービス収支は3月以降赤字に転じ、5月は8075億円の大幅赤字となった。しかし、所得収支は前述のメカニズムによって依然として大幅な黒字を維持している。以上の結果、経常収支は2月の1兆2748億円の黒字から、3月以降減少しており、5月は3910億円にまで減ってきた。

経常収支赤字化論のオールド・バージョン

 では、このように黒字が減ってきた日本の経常収支は今後どうなっていくのだろうか。この点については、驚かれる読者が多いかもしれないが、日本の経常収支が近い将来赤字となることは、エコノミストの間ではほぼ常識化している。その背景を説明する前に、経常収支が黒字から赤字へと変化するのは意外と速いという点に注意したい。これは、前述の「雪だるま式」と逆のことが起きるからだ。

 つまり、何らかの理由で貿易・サービス収支が赤字になると、今度はその分、対外資産が減少する。するとその分、所得収支の黒字も減る。このため「逆雪だるま式」に経常収支黒字は減っていき、いずれは赤字となるのである。

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「経常収支の赤字を懸念せざるを得ない理由」の著者

小峰 隆夫

小峰 隆夫(こみね・たかお)

法政大学大学院政策創造研究科教授

日本経済研究センター理事・研究顧問。1947年生まれ。69年東京大学経済学部卒業、同年経済企画庁入庁。2003年から同大学に移り、08年4月から現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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