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静岡茶、産地はこうして守られた

行政が生産者の自主検査を後押し、風評被害と戦った島田市

2011年8月23日(火)

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 福島原発事故で放出された放射性物質が、さまざまな農産物、畜産物から検出されている。稲わらによる大規模な牛肉汚染は、畜産における放射性物質リスク管理が失敗したことを意味し、社会に大きな衝撃を与えた。これから米の収穫を控え、どんな影響があるか。行政や生産者は、どう動くべきなのか。

 お茶の大産地静岡では、暫定規制値の妥当性とその検査方法をめぐって国と県が鋭く対立し、大論戦が繰り広げられた。そして、その一方で、産地では「自分の産地は自分で守る」独自の動きも広がっていた。

 未曾有の原子力災害の中で、どう行動したら産地やブランドを守ることができるのか。現地で取材した。

 静岡県はシェア50%を占めるお茶の大産地だ。「夏も近づく八十八夜」の歌で知られる5月初旬が一番茶の取り入れ時期で、産地も市場も1年で一番活況を呈する時期だ。ところが、今年の「茶況」には最初から異変が起きていた。

 市場関係者によると、5月に入って間もなく、急に一番茶価格が暴落した。このころ、御前崎市にある中部電力浜岡原子力発電所の運転を停止させるかどうかが政治的な焦点となり、その関連による下落と思われる。まさに「風評被害」だ。

 しかし5月11日には、静岡県との県境にほど近い神奈川県南足柄市で収穫・製茶された足柄茶から、国の暫定規制値を超える570ベクレルの放射性セシウムが検出された。市場は「静岡に波及する」との思惑からさらに安値になり、下落幅は20%程度に達した。

 静岡県は、直ちに神奈川県側の県東部と中部でサンプリング調査を行い、いずれも暫定規制値を大きく下回る値であることを確認した。5月16日には田辺信宏静岡市長が、18日には川勝平太静岡県知事が「静岡茶の安全宣言」を行った。

 その一方で静岡県は、お茶の放射性物質検査について、原子力安全委員会が定めた暫定規制値を当てはめることは妥当でないと主張し、厚労省、農水省と激しい論争を繰り広げることになった。ここが混乱の始まりである。

薄める?凝縮?、規制値を巡り混乱

 静岡県が大きな問題としたのは、お茶の放射性物質に関する基準が決められていないにもかかわらず、農産物、畜産物などの暫定規制値500ベクレル、飲用の暫定規制値200ベクレルという原子力安全委員会が策定した規制値を、厚労省がお茶についても当てはめたことだ。

 500ベクレルの暫定基準値が適用される食品は、直接食べて体内に摂取することを前提としている。ところが、お茶は茶葉にお湯を注ぐことで成分を溶かし出し、言い方を変えれば「薄めて」飲む。

 含まれているセシウムは50%程度溶け出すと言われているが、それによりセシウムは50分の1程度に薄められ(静岡県茶業研究センターの実験では、85分の1程度という結果も出ている)、飲用茶にすると数ベクレルからせいぜい十数ベクレルの範囲となり、飲用の暫定基準値200ベクレルに楽々収まってしまう。

 しかし製茶の製造工程では、加熱して水分を飛ばす工程が繰り返されるため、放射性セシウムは5倍程度に濃縮されるといわれる。この段階で検査すると、セシウムの数値は高く出てしまう。数値が独り歩きすると、必要以上に危険であるように見え、風評被害を招くのではないか――。ここに静岡県は大きな懸念を持った。

 一方で静岡県は、生茶葉や消費者に渡る「製茶」について、暫定基準値500ベクレルを適用した検査や出荷制限に反対しているわけではなかった。焦点は「荒茶」(あらちゃ)という、耳になじみのない半製品。この検査をめぐって、国と川勝県知事がバトルを繰り広げたのである。

 そもそも「荒茶」とは何なのか。 

「荒茶」検査をめぐり国と知事が大バトル

 農家がお茶の木から摘んだ茶葉は、工場に持ち込まれる。製茶機械にかけて、蒸気で加熱して揉み、水分を除いていく工程の途中の段階が、「荒茶」という半製品だ。生の茶葉に比べ5分の1の重量になった荒茶から、さらに熱処理と揉みを繰り返すと完成品の「製茶」になる。

 荒茶まで加工すれば冷凍保存も可能になるため、市場での取引は生茶葉ではなく、荒茶の状態で行われている。静岡県には、このような荒茶を扱う工場が2000カ所あり、荒茶を市場や仲買人から買った茶商は、「製茶工場」でさらに加熱して火入れ、選別の工程を繰り返して「製茶」に仕上げて販売店に卸す。消費者が「お茶っ葉」というのは、この製茶のことを指している。

 川勝平太知事は、記者会見で自らお茶を飲み、静岡茶の安全性を積極的にアピールした。「静岡茶は安全だ。荒茶を検査する必要は全くない」と強調、さらに暫定規制値の根拠を求めて国に論戦を挑んだ。

 厚労省は「荒茶段階でも直接消費者の口に入る可能性がある」と反論したが、これには農家、加工業者、販売業者すべてが「あり得ない。お茶に対する理解が足りない」と反発、川勝知事のボルテージはさらに上がった。

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「静岡茶、産地はこうして守られた」の著者

髙瀬文人

髙瀬文人(たかせ・ふみひと)

フリージャーナリスト/編集者

1967年宇都宮市生まれ。法政大学法学部卒業後、三省堂や日本評論社を経て2008年に独立。月刊『FACTA』で司法や事件の記事を、『東京人』にルポルタージュから趣味性の高い記事までを執筆。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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中谷 巌 「不識塾」塾長、一橋大学名誉教授