今回のバンクーバー冬季五輪は、いつになく見所が多く、気づかされることがたくさんあった大会でした。たしかにスポーツ観戦なのですが、国同士の戦いは戦略という観点で見ると、まるでマーケティングの競い合いといったほうがいいのではないか、と思われました。実はこういうところに、ヒントがあるのです。
それが典型的に表れていたのが、女子フィギュアの戦い。史上最高点をたたき出した韓国のキム・ヨナ選手の演技は、確かに素晴らしいものでした。しかし、その異常なほどの評価の高さには、ちょっと驚かされたのも事実です。
彼女の演技は、水が流れるようでスケーティングに途切れがなく、極上のなめらかさというのが一般的な受け止め方でしょう。
しかし、それはマーケティング的に練りこまれたものでした。まず、ターゲットは当然、ジャッジたち。それから、カナダ人や米国人の観客です。ロシアをはじめとする欧州の人たちと違い、明るく分かりやすいものが大好きな国民です。
そのためにキム・ヨナ陣営は、カナダ人コーチを選び、練習の地もカナダに。その戦略を決定的にしたのは、ショートプログラムの「007」の曲。誰でも知っていて乗りやすい。観客を味方につける第1弾です。
競合である浅田真央選手が苦手とするショートプログラムで、大きなポイント差をつけようという作戦。真央ちゃんが、ノーミスだったので想定通りの差はつきませんでしたが、それでも4.72の差をキープしました。
また、ご存知のようにフィギュアは、人間が点数をつける競技。彼らへの心理作戦は、PRキャンペーンに似ています。「女王」というイメージをつけることから、もう採点が始まっているのです。今回のキム・ヨナ選手の報道への対応を見ていても、真央ちゃんをライバルとして語っていません。“自分の演技をするだけ”、あくまで女王らしさを保っています。
それから、一番の戦略は「フィギュアの評価はネットインプレッション」という主張。トリプルアクセルなどの大技ではなく、総合的に美しいこと。これをフィギュア界に浸透させたことです。
フィギュアは、スポーツであると同時にダンスのようなパフォーマンス。つまり、エンターテインメントだという先入観を女王の演技でつくっていったのです。そのピークをオリンピックに。
それが功を奏して、「GOE」という演技の出来栄えに加点されるポイント加算が、ほかの選手より多くなっていきました。ですから、トリプルアクセルなどの大技をギリギリで達成するより、3回転+3回転のほうが余裕を持ってできるので、そちらの方を選んだのです。結果はキム・ヨナ選手だけが、この恩恵を受けました。まさに、金メダルのために「何をするべきか」(What to do?)というマーケティングの基本戦略です。
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