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アジア市場をソーシャルに攻める「成熟度モデル」活用法

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  • 2011年9月26日 月曜日
  • 岩渕匡敦、辻佳子

 世界的な経済不況が続く中、力強い成長を続けるアジアに注目が集まっている。とりわけ、この数年においては、労働市場としてのアジアではなく、消費市場としてのアジアに関心が寄せられており、アジアでいかなるマーケティング戦略を取るかが多くの日本企業にとって大きな関心テーマとなっている。その際の有力な武器が、ソーシャルメディアの活用だ。ただ、アジア各国が既に持つソーシャルメディアのポテンシャルと、日本企業の活用レベルには、大きなギャップがある――。
 そんな実態を、独自の「ソーシャルメディア成熟度モデル」を使って解き明かすためのデータを、デロイトトーマツコンサルティングがこのほどまとめた。同社は、アジアへの進出支援でも多くの実績を持つ。10月7日に本誌主催の「ソーシャルメディア時代のアジア攻略法」にも登壇する、同社の岩渕匡敦シニアマネージャーと辻佳子コンサルタントに、開催に先立ちアジア攻略法の一端を寄稿してもらった。

 デロイトトーマツコンサルティングはこのほど、企業がアジアにおいてマーケティング活動を展開していく上で重要性が高まっている各国のソーシャルメディアを取り巻く動向を取りまとめた。これまで当社は、日本企業のアジア進出の支援などを手掛けてきた。その過程で、アジアにおける市場動向の調査などを実施してきており、それらの結果をまとめたものである。

 世界のマーケティング分野においては、ソーシャルメディアの発展と浸透により、マーケティング3.0とも呼ばれるような新たなアプローチが考えられ、それが実践されつつある。これは、日欧米といった先進国市場にのみ見られる動きではなく、アジア市場においても、検討されるべき事項となっている。すなわち、今後のアジア市場の攻略を考えるにあたっては、ソーシャルメディアをいかに活用していくかという点が重要な要素となる。

SNS普及率で日本(42%)の2倍もあるアジアの5カ国

 まず、図1をご覧いただきたい。これは、Facebookに代表されるようなソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のアジア各国における普及率と利用頻度を示したものである。フィリピン、インドネシア、マレーシア、シンガポールでは、普及率が80%を超えている。また、平均月間利用回数も20回を超える高い値を示している。これは、こうしたエリアで企業がマーケティングを展開していく上で、SNSの利用が効果的となるポテンシャルを持っていることを示していると言えるだろう。

図1 アジアにおけるSNSの普及度と利用頻度

 図2、3には、アジア各国のインターネット(ブロードバンド)普及率、携帯電話普及率を示している。この結果から、ブロードバンド環境はまだ十分には整っておらず、スマートフォンの普及も途上であるが、携帯電話は十分に普及していることが分かる。携帯電話からSNSに接続することが多いアジアの事情を踏まえると、SNSの活用環境という意味ではすでに十分に整っていると読み取ることもできるだろう。

図2 アジア各国における携帯電話の保有台数の推移(100人当たり保有台数)

図3 アジア各国におけるインターネット普及率の推移(100人当たりインターネットユーザー数)

購買時に信頼するのはテレビ広告18%、ネットクチコミ27%―インドの実態

 では、アジアの消費者における購買行動との関係はどうか。その一端を示すデータが図4である。そこには、アジア各国では、テレビ広告よりも、ネット上のクチコミ情報を信頼するという傾向が明確に現れている。

 「特にアジアの多くの国では、オンライン上のクチコミを元に購買を決めており、今後この流れはますます加速していくだろう」と、ニールセンジャパン、コンシューマー・リサーチのエグゼクティブディレクターの中屋孝行氏は語っている。

図4 アジアの消費者による各メディアへの信頼度

 ここまで紹介した図1~4から推察できることは、まずアジアにおいては、SNSに接続する手段や端末が十分に行き渡っていること。次にその多くの人たちがSNSを積極的に利用していること。そしてSNSで語られる製品やサービスの評判を高い確度で信頼する傾向があること、である。すなわち、先述の通りアジアにおけるマーケティング戦略を考えるにあたっては、SNSを含むソーシャルメディアの有効活用が重要になることが分かるだろう。

 弊社は、日本企業のアジア進出などに絡んで成功と失敗の姿を数多く目の当たりにしてきた。それらから導き出される成功と失敗の分水嶺となるのは、進出先の市場に対する「ローカリゼーション」、つまり現地化が徹底して行われたか否かである。

 アジアにおけるソーシャルメディア活用を考えるに当たっても同様である。アジアを一括りにして捉えるのではなく、対象となる国・地域・社会の特徴や特性を十分に理解・把握し、それに適応させていかなければならない。加えて、その特徴や特性を動的に捉える必要がある。

 アジアは、成長と発展のただ中にあり、海外からの様々な影響も受け、動的に変化し続けている。この動的な変化を踏まえ、その時点で顕在化している状況を把握するだけでなく、潜在的なニーズや将来的な動向を多面的に把握し、ローカリゼーションを進めていかなければならない。

「ソーシャルメディア活用の成熟度モデル」とは…

 一方で、詳細な状況把握や細やかなローカリゼーションを実施する前に、対象となる国・地域・社会の概況を把握し、それをインプットにしてソーシャルメディア活用の方向性を考察する必要もある。弊社は、こうした考えの下、「ソーシャルメディア活用における成熟度モデル」を考案した。

 それは単に、ソーシャルメディアをどの程度活用できるかという「成熟度のレベル」を定義しているだけではない。その適用に際して、対象となる国・地域・社会の状況を捉え、それを成熟度モデルに当てはめて、企業が目指すべきレベルを見定めるところに1つの特徴がある。

 例えば、アジアの辺境エリアにおいては、高いレベルでのソーシャルメディア活用は不要で、むしろそれを目指すことが無駄な投資となり得る。が、アジアの主要な都市では、マスメディアとの連携も含めた、高いレベルでのソーシャルメディア活用が必要になることが考えられる。こうした国・地域・社会の違いを踏まえて、どのレベルを目指すことが適切かを判断することができる仕組みを取り入れているのである。

 具体的には、対象となる国・地域・社会を(1)政治的側面(Politics)、(2)経済的側面(Economics)、(3)社会的側面(Society)、(4)技術的側面(Technology)から分析する(図5)。これは、企業を取り巻くマクロ環境を分析するPEST分析と呼ばれる手法と同様の軸を用いて、対象となる国・地域・社会の概況を理解するものである。具体的には、図5に示すような項目で確認することとなる。

図5 PEST分析の4つの軸

 上記のような項目を定量的・定性的に確認し、その結果をもとに、対象となる国・地域・社会が成熟度モデルの中で、どのレベルにあるかを判断する。これによって、対象となる国・地域・社会の状況をスナップショットのように捉えるとともに、さらに来たるべき次のレベルをも見据えることができるようになっている。

 成熟度モデルの各レベルをより具体的に捉えるため、弊社の成熟度モデルでは、漠然と各レベルを定義するのではなく、メディア環境を構成する要素ごとに、どのような状態になっているかという点から各レベルを定義している。メディア環境を構成する要素とは、以下の図6に示した5つである。

図6 メディア環境を構成する要素(上図)と、各要素の説明(下図)

 我々の成熟度モデルでは、レベル0からレベル5までの6段階と、メディアを構成する5つの要素をマトリクス化して定められている(図7)。

 具体的な国・地域・社会を対象にして、この成熟度モデルを当てはめると、当然のことながら、企業が目指すべきソーシャルメディアの活用レベルは、それぞれの状況に応じた異なる結果が導出される。ただおしなべてアジアにおける主要都市部の多くは、レベル3 (Integrating)もしくはレベル4 (Optimizing)という結果が出る。

 すなわち、先に述べた(1)政治的側面(Politics)、(2)経済的側面(Economics)、(3)社会的側面(Society)、(4)技術的側面(Technology)から、アジアにおける主要都市部を定量的・定性的に評価し、これを成熟度モデルのレベルに引き当てると、レベル3(Integrating)もしくはレベル4(Optimizing)になるのである。

 アジアの主要都市部においては、世界の先進国のほか、中国、台湾、韓国などの企業が精力的に進出したことで、携帯電話やパソコン端末の利用が高まり、そのコンテンツなども充実している。また、ソーシャルメディアの普及がマスメディアの普及と並行的に進んだことで、ネット上のクチコミ情報の信用度合いが高いという傾向もある。そういった状況を考えると、アジアの主要都市における、ソーシャルメディア活用の目指すべきレベルがレベル3もしくはレベル4という高い水準になることも理解できるだろう。

図7 成熟度モデルのレベル0~5

多くの企業はまだ成熟度モデルの「レベル2」

 では、実際の企業の取り組み環境や周辺環境はどうかというと、レベル2 (Managed)にとどまっており、取り組みが進んでいると思われる企業に当てはめてみても、レベル3 を完全に満たしている企業は稀である。

 各企業に対して当社が実施したヒアリング、外部から認識できる取り組みやそれに対する消費者の行動様式などを、図7に示した定義に沿って評価してみると、多くの場合、レベル2程度になるのである。傾向としては、「C. コンテンツ」に対しては、比較的積極的な取り組みがなされていることが多いが、「A. 企業(組織体制)」や「E. 管理プロセス」が十分でなく、仕組みとして企業に組み込まれていないことが多い。結果、レベル3を完全に満たす企業はほとんどないという実態が見えてくるのである。従って、多くの企業としては、当面レベル3を目指すべき段階ということができるだろう。

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