• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

「あきらめろ、覚悟せよ、本物を作れ」

風評被害を乗り越えた水俣はどう動いたのか

2011年6月30日(木)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 熊本県水俣市。恋路島を眼下に望む水俣市立水俣病資料館では、ある企画展が開催されている。それは、「福島原発事故風評被害――水俣の経験を伝えたい」。水俣は水俣病の差別と偏見を乗り越えた過去を持つ。その経験を、原発事故の風評被害に直面する地域に伝えようと開いた企画展だ。

 水俣病の被害者や関係者が原発事故に寄せたコメント、被災地に向けた来館者の顔写真付きメッセージなどが即席のブースに展示されている。自治体が運営する資料館は行政目線で四角四面な展示も少なくないが、水俣病資料館は被害者や市民の息づかいを感じる情味のある展示が多い。

今では、水俣の農作物は安心安全の代名詞になっている(撮影:宮島康彦)

乗客は水俣に近づくとパタパタと窓を閉めた

 1956年に水俣病が公式発見されて以来、水俣の人々は重い十字架を背負わされてきた。

 重度のメチル水銀中毒に罹患した水俣病の被害者は生命と日常の安息を脅かされただけでなく、地域社会からのいじめや偏見に晒された。水俣は水俣病の原因企業、チッソの企業城下町。被害者や支援団体が求める補償によって、チッソの存続が危ぶまれると市民の多くが反発したためだ。

 一方の市民は市民で、他地域の住民から激しい差別を受けた。

 電車やバスの乗客は水俣に近づくとパタパタと窓を閉め、息を止めて水俣の町を走り抜けようとしたバイクの若者がスピード違反で捕まった。水俣出身と言うだけで結婚や就職に響くため、水俣出身者の多くが出身地を隠した。水俣病は伝染病ではない。それでも、人々は公害の町、水俣を忌み嫌った。

 当然、水俣の名を冠した農産物はまったくと言っていいほど売れなかった。水俣病は汚染された海が引き起こしたメチル水銀中毒であり、山の農産物には直接的に関係ない。だが、一度、刻印されたマイナスイメージは容易には払拭されない。水俣の生産者は文字通りの風評被害に苦しめられた。

「公害の被害者が加害者になってはいかん」

 その絶望の中、一部の生産者は1つの取り組みを始めた。それは、環境に配慮したモノ作りである。水俣病という災厄に襲われた水俣だからこそ、安心安全な産品を作るべきではないか。母なる海を汚した水俣だからこそ、無農薬・減農薬の農業を進めるべきではないか――。そう考えたのだ。

 「公害の被害者が加害者になってはいかん」。水俣病の差別を克服した杉本雄・栄子夫妻は40年近く前に減農薬のミカン栽培を始めた。80年に漁を再開すると、無添加のイリコ作りにも乗り出した。このイリコ作りは息子の杉本肇氏・実氏の兄弟に引き継がれている。

 そのほかにも、有機栽培のミカン作りを進めた新田九州男氏、妻の病気をきっかけに茶畑を無農薬に変えた天野茂氏、低農薬の甘夏販売を展開した水俣病センター相思社などが先駆的な役割を果たした。80年代半ばになると、何人もの生産者や団体が環境配慮型の農業に切り替えている。

 この動きが、水俣の町作りに大きな影響を与えた。それまでの工業化路線ではなく、環境を軸にした町政に舵を切ったのだ。

コメント2

「記者の眼」のバックナンバー

一覧

「「あきらめろ、覚悟せよ、本物を作れ」」の著者

篠原 匡

篠原 匡(しのはら・ただし)

ニューヨーク支局長

日経ビジネス記者、日経ビジネスクロスメディア編集長を経て2015年1月からニューヨーク支局長。建設・不動産、地域モノ、人物ルポなどが得意分野。趣味は家庭菜園と競艇、出張。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

人々が働きたいという会社になるには 「働きやすさ」と「働きがい」、この2つが必要だ。

川野 幸夫 ヤオコー会長