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東電決算監査は「適正」か?

ルール遵守だけでは問題を見逃す

2011年7月4日(月)

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 風貌のすでに将たり蟇(ひき)の生れ(※1)

 詩人、大岡信の編んだ「新折々のうた8」(岩波新書)の一篇は、初夏の池辺の静寂を勝手に破る野太い鳴き声と蟇の風貌の滑稽さを思わせる。

 だが、大岡によれば、繁殖期に聞かれる求愛の唄声には格別の哀れさがあるとほめる人がいるといい、何より句の作者は、蟇の不格好な図体に、生まれついての立派な将の姿を見ているとも言う。

 滑稽と思うこちらも、そう言われれば何とはなくそんな気にさせられ、ものは視点次第で異なる像を結ぶものと改めて感じ入る。

 いささかの牽強付会を許していただければ、福島第1原子力発電所の事故による巨額損失で揺れる東京電力の2011年3月期決算はどの視点から見ればいいのか。

 売上高5兆3685億3600万円、営業利益3996億2400万円ながら、純損失を1兆2473億4800万円とした巨額損が、原子炉の冷却など安全対策や停止・解体費用と減損によるものであることは知られるところ。

 だが、数兆円から10兆円規模にも上る可能性がある損害賠償については全く計上していない。仮にその損失を見積もり、費用として引当金に計上すれば1兆6024億円の純資産を吹き飛ばし、たちまち債務超過に陥る恐れもあるはずだ。

 「現時点で既に(東電は)倒産している!」。6月28日の株主総会では、株主の1人が議長を務めた勝俣恒久会長らに向けて怒声を放ち、返す刀で「役員は私財を提供して責任を取れ」と詰め寄る一幕まで見られた。

6月28日、東京電力の株主総会は脱原発や経営責任追求を訴える株主の声が相次いだ(写真:時事通信)

 今、同期の決算の処理について監査を担当する新日本有限責任監査法人がつけた「適正意見」を巡っては、会計士や会計学者はもちろん、株主まで議論は沸騰し、意見は激しく対立しているのである。

 正否異なる両者の視点に立てば、そこに何が見えるのか――。

 まずは「適正意見」を正当とする側。新日本自身は、当然ながら個別案件についてはコメントしないから、あくまで一般論としてだが、損害賠償に関する引当金を計上するには、3つの条件が揃う必要があると言う。

損害賠償損計上に3つの条件

 (1)損害賠償など債務の原因となる出来事が期末までに発生、(2)損害賠償などの費用や損失が発生する確率が高い、(3)損害賠償額を合理的に見積もることが出来る――である。

 それ以上は答えないものの、東電が会社法に基づいて作成する2011年3月期の計算書類を子細に点検すると、(1)と(2)についてはありとし、(3)は認めていないことが分かる。

 計算書類には、現時点では債務ではないが、一定の条件が揃うと将来債務となる可能性がある偶発債務が損害賠償で発生する可能性を認めている。そして、それらが大きいため、事業の継続に疑問があるとする「継続企業の前提に重要な不確実性がある」とも認定している。

 ところが、(3)については、補償の範囲や期間などの賠償指針を決める文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会がまだ、指針の全体像を確定していないため、「現時点では損害賠償を合理的に見積もることができない」と明快に否定している。

 つまり、損害賠償額の合理的見積もりが不可能だから賠償損は計上していないが、巨額の偶発債務の存在と、それによる“破綻の可能性”を注記することで十分、正しい会計処理をしているという判断が、新日本の適正意見の重要な根拠になったのだろう。

 監査のルールだけをひもとけば、「なかなか反論はしにくい」(別の大手監査法人の会計士)とされるのはこのためだ。

※1 作者は秋葉雅治氏

コメント12件コメント/レビュー

今後東電に債務超過を不可避にする債務が発生することは間違いないと思われるが、その額をだれも正確に計算できないのも事実だろう。白黒はっきりさせたいところだが、単に会計の専門家にすぎない会計士に判断させるというのは一定のリスクを伴うことでもある。回復不可能な結果を防ぐ会計士協会の通達は個人的には理解可能である。最終的に社会がうまく回転させることが目標のはず。会計情報はどのような有用性を有するものであるべきなのか、会計士あるいは会計情報の受け手の能力はどの程度なのかを考えてなければならない。分からないものは分からないのだ。(2011/07/05)

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「東電決算監査は「適正」か?」の著者

田村 賢司

田村 賢司(たむら・けんじ)

日経ビジネス主任編集委員

日経レストラン、日経ビジネス、日経ベンチャー、日経ネットトレーディングなどの編集部を経て2002年から日経ビジネス編集委員。税・財政、年金、企業財務、企業会計、マクロ経済などが専門分野。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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いただいたコメント

今後東電に債務超過を不可避にする債務が発生することは間違いないと思われるが、その額をだれも正確に計算できないのも事実だろう。白黒はっきりさせたいところだが、単に会計の専門家にすぎない会計士に判断させるというのは一定のリスクを伴うことでもある。回復不可能な結果を防ぐ会計士協会の通達は個人的には理解可能である。最終的に社会がうまく回転させることが目標のはず。会計情報はどのような有用性を有するものであるべきなのか、会計士あるいは会計情報の受け手の能力はどの程度なのかを考えてなければならない。分からないものは分からないのだ。(2011/07/05)

監査について擁護するつもりではないが、「そんな監査がまかり通る国が海外からの投資を呼び込もう」というコメントがあるが、欧米系は昔からルールを常に自分に都合の良い様に変えてしまう意味でトンデモであり、中国については言わずもがな。文言そのままを実践しているようにしか見えない。馬鹿正直は馬鹿を見るだけ。それをグローバルスタンダードだというのだから勉強するしかないね。(2011/07/04)

債務超過=>即破綻ではない。引当金は支払いの発生しない費用。キャッシュは回るので破綻にはなりません。▼原発賠償の引当繰入をいつからするかも問題。原発事故が起ったときから繰り入れるのが妥当か、それとも、その前から、原発建設時から積み立てるのが妥当か。原発という資産に基づく保証債務だから、建設時から積み立てるのが妥当と思われる(∵資産除去債務等と同じ)が、建設時から積み立てるとそもそも事故を前提に建設することになり、それもある意味不合理。また、そうなると現在の電気料金のシステムからは引当金計上単価分、電気料金が値上げされることになる。そうであれば、引当繰入額に応じた利益剰余金が積み立てられているはずなので債務超過には陥らない。▼単に、今回の事故を受けて短期的視点から東電の会計監査に対して異論を書くにしてはロジックがやや弱いと思います。(2011/07/04)

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三品 和広 神戸大学教授