「40代以上の日本人男性社員はもういらないんですよ」
新幹線の車内で話を聞いたイオンの人事担当者ははっきりとこう言い切った。ここ最近の取材で聞いた言葉の中でも、強く印象に残ったものの1つだ。
日本企業各社が外国人の採用を増やし、新興国を中心に海外シフトを強めているのは、日頃の取材や報道を通じて分かっていた。それでも、内需型産業の典型でもある流通業の人間から、しかも取材の中でこのような率直な言葉が出てきたことに驚いた。
全国に100以上の大型ショッピングセンターを作り、規模を拡大してきたイオンは昨年秋に発表した経営計画で戦略を大きく転換した。他の多くの企業と同様に、海外により多くの経営資源を投じて成長を目指す方針を打ち出したのだ。
これまでも同社は中国やマレーシアなどでスーパーやショッピングセンターを運営してきたが、経営の基盤はあくまでも国内にあった。岡田元也社長は米国への留学経験もあり、社長就任当初からグローバル企業への変身を訴えてきた。しかし、その掛け声とは裏腹に、イオンは内需中心の事業構造であり続けた。様々な課題はあっても、国内中心で十分に成長できる余裕がまだあった。
世界各地で人材採用を始めたイオン
だが、ここへきていよいよ海外展開に本腰を入れ始めた。背景には、2007年に施行された改正まちづくり3法によってイオンが得意としてきた郊外型の大型ショッピングセンターが作りにくくなってきたこともある。なにより、人口減と過疎化の影響がはっきりと現れ始め、国内での成長シナリオが描きにくくなった。
イオンが今年から3年間で海外に投資する額は過去3年間の3倍弱になる計画だ。日本のほか中国と東南アジアにそれぞれ、地域を統括する本社機能を置く「3本社制」を敷く段取りも今年に入って進めている。イオンの連結売上高は現在約5兆円。これをアジアでの出店加速などによって、2020年には10兆円台の後半に持っていこうとしている。これは売上高が約30兆円超の米ウォルマート・ストアーズには及ばないものの、英国のテスコなどを上回る規模で、文字通りグローバル企業の仲間入りをしようという壮大な構想だ。
海外での事業拡大計画に伴って、人材採用の面でも大きな変化が出てきた。現在のイオンの従業員数は全世界でざっと30万人。仮に2020年の構想を実現するとなると、100万人規模の従業員が必要になるという。増える人員の多くは当然、日本以外の国で働くことになる。
そのため、イオンは今年から海外での採用活動を本格的にスタートさせた。この秋から中国の北京や上海、香港のほかマレーシアやベトナム、米国の西海岸でも採用活動をする。夏にはロンドンでクレジットカードなど金融事業に関わる人材を募集したところ、想定を上回る応募があった。
外国人の従業員が増えるのに合わせて、人事制度にも手を入れる。報酬や福利厚生、研修などを順次、変えていく考えだという。
「40代以上の日本人男性社員はもういらないんですよ」とは編集者も思い切ったものだ。この発言は「もう」をどう読むかで多義性がある。それをタイトルではあえてこの「もう」を外している。編集者の意図が見える。確かに「40台以上の日本人男性社員はもういらない」だろう。費用対効果でペイしない年功序列の残骸に企業としては義務が残っているだけだ。(若いころに給料以上に働かされているという前提)その功に報いる義務ということだ。結局,企業からは「負債」以外の何物でもないということか。海外展開の新戦略にはこうした負債を早く処理したいできれば債務放棄したい企業側の思いが見て採れる。年功序列や終身雇用がもてはやされた時代があった。我々の世代はそれに踊らされ働かされた。それによって高度成長やバブルが実現された。「夏草や兵どもが夢のあと」,我々はいまだ枯れることもできずにいる夏草なのだろうか。(2012/05/31)