「農業でも、日米関係でもないTPPの見方」

カナダは酪農製品や鶏肉の“減反”にこだわり

米国の拒否にもめげず参加に名乗り

  • 高橋 俊樹

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2011年11月21日(月)

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環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐって賛成派と反対派が激論を戦わせている。

日本の農業が壊滅する!
参加しないと日本は孤立する!
米国の陰謀に乗ってはならない!
強い言葉が飛び交う。

だが、これらの議論は「日本の視点」に偏っていないか?
TPPは10を超える国が参加を表明した多国間の貿易協定だ。
日本と米国以外の国がTPPをどのように見ているのか知る必要がある。

交渉に参加していない他の環太平洋諸国の態度も参考になる。
自由貿易協定(FTA)の網を世界に張り巡らす韓国は、なぜTPP交渉に参加していないのか?
ASEAN諸国も一枚岩ではない。
ベトナムが交渉のテーブルに着く一方で、タイは参加していない。

今回は、国際貿易投資研究所の高橋俊樹 研究主幹に、カナダの動向を分析・解説してもらう。

 アジア太平洋経済協力会議(APEC)ハワイ会議に出席したカナダのハーパー首相は13日、オバマ大統領と会談し、TPP交渉への参加に意欲を示した。もしも、カナダが参加すれば、農業に限らず知的財産権保護、医療などの問題で、日本はカナダと組んで交渉に臨むことが可能になる。

カナダは虎視眈々とTPPへの参加表明を狙っていた

 カナダには、2006年に発足したP4(TPPの前身)への交渉参加を断念した経緯がある。これは、酪農製品の競争力が高いニュージーランドからの輸入増を恐れたためであった。ニュージーランドの酪農家は1万2000戸で、1戸当たりの乳牛数は370頭に達する。一方、カナダの酪農家は1万3000戸で、乳牛数は1戸当たり69頭にすぎない。ちなみに、米国は6万5000戸で140頭である。

 一度は断念したカナダであるが、米国が2008年にTPPへの参加を表明したのを受けて、ハーパー首相は翻意。2010年3月に、交渉参加の意思をレターで関係各国へ伝えた。これは、欧州や米国経済の低迷が見込まれる中、アジア市場の成長力に対する期待が高まったためであった。しかし、米国とニュージーランドは、酪農製品や鶏肉、鶏卵の生産や輸出入を各生産者に割り当てるカナダの供給管理政策や知的財産権保護政策などへの不満から、カナダの交渉参加を拒否した。

 カナダは当初、米国が固めた土俵の上に成り立っているTPPには、日本も中国も安易に参加しないと見ていた。それでも、カナダは供給管理政策などの国内問題を温存できるならば、TPP交渉に参加しようとしたが、米国に乗車拒否をされてしまった。

 カナダは、供給管理政策だけでなく、北米自由貿易協定(NAFTA)――米加メキシコによる自由貿易協定――の積み残し案件を抱えている。例えば、カナダ小麦委員会(CWB)が小麦の買い付け・販売を独占的に行っている。テレビ・ラジオ放送において、コンテンツの一定割合(50%〜60%)をカナダ製にするよう放送業者に義務づけている。

 カナダのGDPにおける農林水産業の割合は2%にすぎない。IT産業の競争力が高いなど、表面的には他の主要先進国の経済構造と変わりはない。しかし、農業部門から派生する加工食品産業やアグリバイオ、医薬品産業などの比重が高い。つまり、カナダは基本的には農業関連産業を基礎とした国家である。このため、酪農製品の供給管理政策を放棄することは考えられない。現に、EUと交渉中の自由貿易協定(CETA)において、EUが撤廃を要求しているものの、供給管理政策を維持すると明言している。

 米国とニュージーランドによる参加拒否は、カナダにしてみればショックであったろう。だが、自由貿易交渉の歴史が長く、百戦錬磨のカナダの交渉官たちは、「米国にしてやられた」と思いつつも、虎視眈々と次の手を狙っていたのだ。今回のAPECにおけるハーパー首相によるオバマ大統領へのTPP参加表明は、日本やメキシコとタイミングを合わせ、米国議会へのアピールを一気に図ったものと思われる。

 カナダは、交渉参加を表明する布石として、米国が求めていた知的財産権保護に対応した。カナダ議会が、世界知的所有権機関(WIPO)に沿った保護強化法案を可決している。また、政府調達においても、米国の自国製品を優先するバイアメリカン法のカナダ企業への適用除外や、州政府による調達を米加間で互いに解放することで合意に達している。

農業の保護で、日本とカナダは共闘できる

 2010年に米国から突きつけられたTPPへの交渉参加拒否を受けて、カナダは3つの選択肢を持っていた。第1は、知的財産権保護の立法化のように、ある程度譲歩して、途中からTPPに参加する。第2は、TPP交渉国がすべての交渉を終えてから、その損得を見極めたうえでTPPに参加する。第3は、TPPに参加しないでASEAN+6など、他の広域経済圏構想やアジア各国との2国間ベースのFTAを模索する。

 日本の交渉参加の可能性が次第に濃くなる中で、第1のシナリオを選択する意思を固めたと思われる。

 カナダが第1のシナリオを選んだとしても、「NAFTAの積み残し案件の改善など、交渉前の事前の約束が必要」との姿勢に米国議会が固執する限り、カナダの参加の要望が再び受け入れられない場合があり得る。このため、カナダ政府は「TPP交渉前に、何らかの事前の約束に対する用意はない」としながらも、知的財産権保護の立法化で米国の要求をのんでいる。法改正を進め、小麦委員会による独占的な売買を、2012年8月には廃止する意向である。

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