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格付け会社が飲んだ「毒薬」

「利益相反」を生むビジネスへ突き進んだ背景

2011年11月29日(火)

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 日本人は結構「格付け好き」である。古くは相撲の番付表あたりにその嗜好が見て取れる。現代では、世界遺産に認定された観光地は一気に観光客が増えたり、金賞を受賞した食品は売り上げが倍増したり、などという現象は皆さんもおなじみだろう。異国のタイヤメーカーなどに日本の食文化が分かってたまるか、と上陸当初はさんざん物議をかもしたレストランガイドも、日本各地に降るように星がまき散らされると、高評価に喜んだ世間にすみやかに馴染んだ。

 だが、ひとつだけ嫌われ続けている格付けがある。これが「信用格付け」だ。どこかにおカネを貸した時に、それが戻ってこないかもしれない可能性(=信用リスク)を簡単な記号で表し投資家に広く知らせるものである。

「格下げ」などという言い方はもってのほか?

 対象をある基準で区分し分かりやすい呼称で表記する点においては、世界遺産や三ツ星レストランと何ら変わることは無いのに、なぜ信用格付けだけが嫌われるのか。もちろん後に掲げる様々な理由はあるにせよ、実は嫌われてしまう大きな特徴が、信用格付けには存在する。それは「悪いものでも採り上げる」ということだ。

 「格付け」という言葉から日本人が無意識に想起するのは、ある種の“権威づけ”である。何か摩訶不思議な記号やら立派な名称やらがつくことにより、その対象となったものには箔がつく。「格」という言葉はそもそも「格が上がる」とか「格が違う」、あるいは「品格」「別格」「格調」など、上位のものを良い意味でその他から選り抜き、寿ぎ讃えてその権威を認める、という時に使われる。

 然るに、「信用格付け」はこうした言葉に対する理解を逆撫でする。「格下げ」などという言葉は問題外だ。信用格付けの側としては、単に債権者の立場から信用リスクが少々増しましたよ、と公表しているだけなのだが、そんな金融の動きに関係のない人から見れば、まるで「“失格”宣言」でもしているかのようで聞こえが悪い。

 また、信用格付けの場合には、下位に至るまでくまなく格付けしようとする。むしろ、下位になるほどうるさく細かく「如何に格が低いのか」ということを言い立てる傾向にある。信用リスクに警告を発する立場なのだから、危なくなるほどうるさく言うのは当たり前なのだが、相撲の番付表でも前相撲など駆け出しの類は番付には載らないのがお国柄である。優れたものの「格」を感じて幸せにひたるという日本的美意識からみれば無粋極まりない。“Credit Rating”は、実に不幸な日本語に訳されてしまった。

「格付け機関」と言っても結構アヤシイ存在だった

 この不幸に追い打ちをかけるのが「格付け機関」という訳語である。ただでさえ「格」と言われれば権威を連想するところ、さらに「機関」である。これはもう何か由緒ある団体が権威ある表彰でも行うに違いないと思える。

 だが、“Rating Agency”にそのような意味は無い。単なる民間会社である。“Agency”には確かに政府の機関といった意味もあるが、それよりも販売代理店などというときの「代理店」のイメージに近い。英英辞典に「A business that provides information about other business and their products」とあるのが、Rating Agencyが実際に行っている仕事に極めて近い定義である。他者の事業に関する情報を提供するのが仕事、ということだ。忙しい投資家の代わりに発行体の事業に関して分析調査を行い、その情報を投資家に提供する。日本で言えば、帝国データバンクや東京商工リサーチなどの調査会社もこの範疇に入るだろう。

 そうした「投資家代理業」という意味でのAgencyという言葉が、いつの間にかものものしい「機関」に化けたため、格付け会社は何やら秘密のベールに包まれた権威主義的な公的機関だと誤解されるようになってしまった。それゆえ「公的な存在ともあろうものが、民間企業の倒産を手助けするとはけしからん」などと見当違いの非難を浴びたり、逆に格付け会社の方がこうした誤解を利用してさも偉そうに振る舞ったりということも起こったのである。だが、そもそもは別に偉くもなんともない、それどころか結構アヤシイ存在だったのだ。

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「格付け会社が飲んだ「毒薬」」の著者

松田 千恵子

松田 千恵子(まつだ・ちえこ)

首都大学東京大学院教授

1987年東京外国語大学外国語学部卒業。2001年仏国立ポンゼ・ショセ国際経営大学院修士。日本長期信用銀行、ムーディーズジャパンを経て、コーポレイトディレクションなどでパートナーを務める。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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