「橘川幸夫の オレに言わせれば!」

年金制度に反対し、天下りを拒絶した元官僚が遺したもの

「情報化社会の影」を予見した時代の先駆者、林雄二郎さんを追悼する

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2012年1月11日(水)

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 敗戦の焼跡の中から日本社会、日本産業の未来のビジョンを描き、「情報化社会」という言葉を発明し、企業の社会貢献である財団活動、フィランソロピー活動の発展に大きく寄与した林雄二郎さんが、11月29日に亡くなられた。95歳の大往生である。

 林さんは、絶えず社会の最前線に自分を置き、現場で起きている様々な事象に心を集め、不正義や硬直した組織を嫌い、優しい笑顔で人と接していた。膨大な知識と、独自の経験と思考による知恵は失われたが、彼の想いと意志は、ますます混乱を極めている日本社会において、引き継ぐべき財産だと思う。

 林さんは戦争終結の後、戦後の日本社会を再スタートするシンクタンクであった経済安定本部(通称・アンポン)に入り官僚生活を始める。アンポンはやがて経済企画庁になり、1966年、日本の未来の見取り図となる「20年後の豊かな日本への一つのビジョン」(通称「林リポート」)を発行する。このリポートのスタッフには、下河辺淳氏や宮崎勇氏など、現在の日本社会の形成に大きな影響を与えた人たちがいた。

 林リポートをまとめるために、梅棹忠夫、小松左京、加藤秀俊氏、川添登氏らに会った。在野の知識人たちは、官僚である林さんが訪ねてくるというので、どうやっていじめてやろうかと手ぐすねをひいていたところ、林さんの発想があまりに柔軟で、自分たちよりも激しく官僚制度を批判したりするので、すっかり意気投合し、その後、この5人のメンバーは、日本の未来を語り合う「貝食う会」という勉強会を定期的に関西で行っていた。

日本の年金制度に反対の意見書

 林さんがまだ若い官僚であった時に、日本の年金制度をどうするかという問題が立ち上がり、フランスの年金制度を調査視察することになった。パリの小さな公園で、フランス人の老人からこう言われた。「私は、年金で生活しているから生活には困らない。だけどな、君のような若者には分からないだろうけど、社会に自分が必要とされていないと思いながら生きるということが、どれだけ辛いことか」と。

 その言葉に衝撃を受けた林さんは、帰国後、年金制度に反対の意見書を書いた。老後をお金だけで保証しようとする制度は、社会を不安定にする、と。日本は、本来、相互扶助の社会であり、親子祖父母の家族関係が緊密である。それを年金の形で社会が老後を保証したら、その家族秩序が壊れてしまうと林さんは危惧したのだろう。

 しかし、欧米型年金制度に走っている大蔵省(当時)は聞く耳を持たなかった。「それでは、林くんは、どうしたら良いと思っているのだ」と問いかけてきた。林さんは、しばらくしてある提案書を出した。それは「逆定年制」というものである。

 通常、企業組織では、従業員がある年齢になったら「定年」として会社を辞めてもらい、退職金を支払う。これを逆にして、ある年齢に達しないと仕事につけない業種を国が決めるというものである。若くても老いても出来る仕事は、若い人ではなくて老人に譲れば、年金制度がなくても老人は生きていける。もちろん、病気や怪我などで思うように働けない老人は年金とは別に保証する。

 しかし、この案は、大蔵省の役人に「書生論」として笑われて捨てられた。林さんのような、想いのあるビジョンを描く人は、当時も現在も官僚組織の中にはいないのだろう。

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著者プロフィール

橘川 幸夫(きつかわ・ゆきお)

デジタルメディア研究所代表。72年、音楽雑誌「ロッキングオン」創刊。78年、全面投稿雑誌「ポンプ」を創刊。その後も、さまざまな参加型メディア開発を行う。83年、定性調査を定量的に処理する「気分調査法」を開発。80年代後半より草の根BBSを主催、ニフティの「FMEDIA」のシスオペを勤める。主な著書に『一応族の反乱』、『生意気の構造』(ともに日本経済新聞社)、『21世紀企画書』(晶文社)、『インターネットは儲からない!』(日経BP社)、『暇つぶしの時代』(平凡社)『やきそばパンの逆襲』(河出書房新社)、『風のアジテーション』(角川書店)、『ドラマで泣いて、人生充実するのか、おまえ。』『希望の仕事術』(ともにバジリコ)、iPhone、iPadアプリ『深呼吸する言葉の森』(オンブック) ほか共著、編著、講演多数。Twitter「metakit



このコラムについて

橘川幸夫の オレに言わせれば!

地方の小さなビジネスから日本の官僚システムまで、あらゆるテーマについて自らの足を使って拾った、“誰も知らない話”を毎回展開する。ゆっくりと崩壊していくかに見える日本と、先が見えない閉塞感から、内に閉じこもりがちな企業やビジネスマンに檄を飛ばす。

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